使命は「自分の仕事をなくすこと」老舗機械メーカーのタイ駐在員が挑んだ業務改革の軌跡

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村田機械は、創業から85年以上にわたり一貫して機械のオートメーション(自動化・省力化)を追求してきた。「ムラテック」ブランドで海外展開を積極的に進め、現在の海外拠点は34カ所以上、海外売上比率は約6割に上る。まさに世界のモノづくりを支える産業機械メーカーだ。

ASEAN地域における主要拠点の1つである村田機械(タイランド)では、会計業務の複雑化やシステムの不具合が問題になっていた。その解決のために奮闘したのは、現地駐在員として日本から向かった坂井剛士氏だった。海外進出企業のための会計/ERPクラウドシステムであるmcframe GAの導入にかけた思いや苦労を聞いた。

業務改革の使命とともにタイへ

村田機械がタイに拠点を置いたのは、1989年のことだ。主に繊維機械の部品販売やメンテナンスサービスを行ってきたが、同国の経済成長に伴う生産品目の変化に合わせ、現在は工作機械とL&A(ロジスティクス&オートメーション)が加わり3事業部が進出している。また、タイを起点にベトナムやバングラデシュなど周辺国もカバーする。

そんなタイ拠点では、いくつかの業務改革が急務となっていた。その使命を果たすべく現地に赴いた坂井氏は、これまでの2年間を振り返り、「一番大きな成果は、私が必要なくなったことです。駐在員である自分の仕事を減らしていったので、今では現地従業員に『日本人スタッフは何のためにここにいるのだろう』と思われているのではないでしょうか。肩身が狭いですね」と表情を緩める。
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Murata (Thailand) Co., Ltd.
ADMINISTRATION MANAGER
坂井 剛士 氏

 

駐在員なしでも回るように業務を「現地化」せよ

坂井氏は村田機械に入社後、経理部門にて決算作成などの経理実務だけでなく、Microsoft AccessやVBAなどを扱い、データ活用や業務効率向上に役立つ基礎的な経験を積んだ。その後に配属された繊維機械事業部では、生産計画に携わる中でグループウェアにも好んで触れていたという。

「営業と製造の仲介役となって生産量を決めるため、問い合わせが多い部署でした。だからこそ、どうすれば電話の問い合わせを減らせるのか、属人的な仕事を撤廃できるかをずっと考えるようになりました。戦略を立てて効率化を実現していく仕事が好きになりました」
プライベートでも財務分析やプログラミング、先端テクノロジーに関心があるという坂井氏。タイ駐在員の辞令を受けた理由を教えてもらってはいないそうだが、そうした経験や適性に期待してのことだろう。

タイにおける坂井氏のミッションは、大きく2つあった。
「10年前に導入した販売システムを利用していたのですが、その事業者がタイから撤退。後継のベンダーでは手に負えない根本的な不具合があったため、販売システムの入れ替えが急務となっていました」
もう1つは、日本からの駐在員を置かなくてもオペレーションが回る「現地化」の実現だった。
「私の後任は置かない予定だと、当初から言われていました。そのため、自分の知識やノウハウをできる限りシステムに引き継ぎ、システムにできない部分はスタッフの教育でカバーしようと考えました」

また、VAT(付加価値税)の申告など専門知識が必要な会計業務を担当するベテランスタッフの定年退職が近づいていたため、属人的な仕事の撤廃も進めなければならない状況だった。
さらに坂井氏は、Excelや紙ベースでの非効率な業務の撤廃や、事業部によって異なる業務の共通項をまとめることによるオペレーションの負荷軽減、仕訳の転記作業を担う外部会計コンサルへの依頼内容の高度化などを目指したいと考えた。

現行のERPからmcframe GAへ入れ替えた背景

タイで仕事を始めて間もない坂井氏に、営業の電話がかかってきた。
「ビジネスエンジニアリング タイ(B-EN-Gタイ)からでした。着任したばかりで方向性も明確になっていなかったので、何か参考になるかもしれないと思って、とりあえず詳しく話を聞くことにしました。mcframe GA はExcelからコピー&ペーストできるUIやアウトプットの見やすさなどが好印象でしたが、別のERPを導入済みでしたから、コストの観点で入れ替えは現実的でありませんでした」

坂井氏は現行のERPパッケージを生かすことを前提に販売システム刷新の検討を進めた。当時は税務領域の一部の限定的な利用にとどまっていたため、会計でも利用するように業務を見直すとともに、領域を販売にも広げる。これなら販売システムの入れ替えと同時に、すべての課題解決やミッション達成が可能だと考えたのだった。さらに、会計担当者以外にも営業など幅広く活用されるシステムを目指した。

「ところが、会計担当者以外の利用を踏まえてライセンス料金を試算したところ、思いのほか高額になることが判明しました。また、機能面でも目的を果たすには不十分な点が多く、このまま決めるのは危険だと思いました」
そこで頭をよぎったのが、B-EN-Gのことだった。

「要件が具体的になった状態で改めてmcframe GAの提案を依頼すると、当初は高額だと感じた価格は圧倒的に有利で、機能や本社システムとの連携においても優位性があると判断しました。また、代理店を通さないので、カスタマイズにも柔軟に応じてもらえる印象を持ちました」

現地スタッフとの価値観のズレという壁

導入の前段では、「なぜ導入済みのERPパッケージを生かさないのか」という疑問の声も当然ながら上がった。
「将来を見据えればアウトプットが最大化するのはmcframe GAだという確信があったので、そのことを本社に主張して受け入れてもらいました」

一方で、タイの現地スタッフを納得させるのには苦心したという。
「私個人の感覚では、タイのスタッフたちは日本人以上に知名度を重視します。残念ながらB-EN-Gの知名度は低く、製品選定時にヒアリングを実施したところ全員が否定的でした」
あるスタッフからは「私たちが選んだシステムではないので、進んで使いたいとは思いません」と言われたこともあった。

だが、否定する理由が知名度だけでは、坂井氏が引き下がる理由にはなり得ない。リーダーは決断するのが仕事だという思いを強く持って押し通した。

「もしERPによる改革が失敗したとしても、自分が決めたmcframe GAなら責任を取れるという覚悟があったので進められました。立ち上げ時には予期せぬ不具合が生じるものですが、“日本人が勝手に選んだシステム”だという印象を持たれてしまったので、嫌みのある文句を言われたものです。非常に辛かったです。それでも現地のスタッフへの尊敬を忘れてはいけないし、申し訳ない、という気持ちもありました。我慢ですよね」

その後、mcframe GAでできることが増えるのにつれて、風向きは確実に変わっていったという。経理のベテランスタッフが「最初はダメなシステムだと思っていたけれど、今では何でもできて私にとって素晴らしいシステムです。もっと学びたいです」とコメントするほどだ。

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人任せにせず、自ら手を動かした導入作業

2021年秋から始まった導入は、まず販売領域で実施。その後に着手した会計・税務領域については、3カ月間は既存のシステムと並行運用して念入りにデータ検証を行い、2023年1月からmcframe GAに一本化した。

導入にあたっては、本社システムとの連携やすみ分けに注意が必要だった。部品販売業務については本社のシステムを使っているが、事業部ごとに使用するシステムもカバーする範囲も異なっている。本社側の仕組みを変えることはできないため、mcframe GA側で調整するしかない。そこで、各システムの機能を把握した上で、B-EN-Gタイのエンジニアと相談しながら、重複入力を防ぐためのインターフェースを事業部ごとに作成するなどして対応した。

坂井氏は導入の計画策定だけでなく、実務でも手を動かしたという。サポートにあたったB-EN-Gタイの担当者は「坂井さんはマスターの設定も含めて、通常ならコンサルタントに任せる業務もすべてご自身で行われました。私たちがご支援したのは、やり方をお伝えすることと、坂井さんの指示を仰ぎながら業務内容に合うように修正すべき箇所を実装することだけです。今ではmcframe GAを導入したい他の企業に対してコンサルティングができるほどの知識があるのではないでしょうか」と証言する。

さらに現地スタッフからも、坂井氏のサポートがあってこそシステムを導入できたので感謝しているとのコメントが上がっている。本人に聞くと「そんなことはないですよ。できないことは、B-EN-Gタイに大いに助けてもらいました」と控えめだが、さらに話が進むと、自分が中心になるべきだという強い覚悟のもと取り組んだことがうかがえる。「自分でできることは自分でやりたいと考えたのは、mcframe GAは私の後継者とも言えるものでもあり、人任せにはしたくなかったからです。また、今回の導入はそれまでの業務を単純に置き換えるのが目的ではありません。業務を棚卸しして要不要を判断する必要があり、それは業務を知っている弊社側の仕事です」

タイ拠点で築いた業務改革の土台を世界へ

村田機械(タイランド)では、バラバラだった業務プロセスがmcframe GAによってつながり、見積から売上、売掛回収までが連動するようになった。その結果、事務処理工数は大きく削減。会計システムについても、仕訳を自社で入力するようになったことで、会計コンサルへの依頼を入力データの検証などへと、より高度な内容に変えることができた。

また、駐在員の業務をシステム化と教育で引き継ぐ取り組みは順調に進んでおり、遠くないうちに坂井氏は日本へ戻る予定だ。冒頭に紹介した「一番大きな成果」である。

本社の経理部門はタイ拠点の財務データに直接アクセスできるようになり、財務諸表を受け渡す手間を削減できている。
「mcframe GAは、営業やサービスにも活用できるものにしたいと考えて、そのための情報を盛り込めるようにマスターを設計しています。一元化したデータを自在に追うことができるので、例えば、保守にお金をかけてくれるお客様だとわかれば、機械本体の販売時に価格を下げる判断もしやすくなるでしょう」

今後について坂井氏は、タイ拠点で行ったmcframe GA導入で築いた土台を他の海外拠点にも水平展開したいと話す。
「海外に出てみると、日本にいる時には見えていなかった日本の良さが体感できました。日本人が海外の方々に尊敬されている国民であり、日本が素晴らしい国であることを日本の皆様にも知ってもらいたいです。その為にも弊社の製品やmcframe GAなど世界でメイド・イン・ジャパンのプレゼンスを高められる活動をしていきたいです」

タイ拠点の知見を生かしたmcframe GAの導入が広がれば、他の海外拠点での業務効率化や現地化はもちろん、本社において海外拠点の財務諸表を比較しやすくなるなど、さまざまな効果が期待される。これまでの実績と坂井氏の後押しにより、インドネシア拠点で既に導入が始まっている。


(文・ノーバジェット株式会社)
※本インタビューは2023年4月現在の内容です。

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B-EN-Gタイ

B-EN-Gは海外進出されているお客様からのグローバル管理ニーズにお応えするために、海外で利用できる製品/サービスの開発・提供や海外現地でのシステム導入支援に取り組んでいる。中国、タイ、シンガポール、インドネシア、アメリカに拠点を有し、そのうちの1つがB-EN-Gタイ(Toyo Business Engineering (Thailand) Co., Ltd.)である。

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