日米公認会計士が語るタイ会計システム導入、プロジェクト成功の秘訣は?

日米公認会計士が語るタイ会計システム導入、成功のカギはコミュニケーション?

世界のビジネス環境は、ここ数年で大きく変わった。日本とタイもその例外ではない。以前のように現地に出張ができず、日本から現場の様子が正確に把握できない状況が続いている。タイに進出する日系企業の多くはすでに何らかの会計システムを導入しているが、テレワークが進み、とりわけクラウド会計システムへのニーズが拡大している。先行き不透明な状況が続くなか、アフターコロナに備えて今のうちにテレワークにも対応可能な会計システムを整備しようという企業は少なくないようだ。

そこで、米国公認会計士の資格を持つビジネスエンジニアリング(B-EN-G)の春山が、日本国公認会計士でありながらシステム導入に精通しているBBSタイ・ダイレクターの山本氏にインタビュー。会計システムをタイで導入する際に知っておくべきポイントについて聞いた。

【登壇者紹介】

山本貴文氏 BBS (Thailand) Co., Ltd. ダイレクター

山本貴文氏 BBS (Thailand) Co., Ltd. ダイレクター
一橋大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。2012年にKPMGあずさ監査法人に入所し、幅広い業界の監査業務を経験。2016年に株式会社ビジネスブレイン太田昭和に入社、同年よりタイに赴任。タイの日本企業現地法人への業務改善コンサルティングサービスに従事している。

ガンピロム・ポンイヤム(アオイ)氏 BBS (Thailand) Co., Ltd. 

ガンピロム・ポンイヤム(アオイ)氏 BBS (Thailand) Co., Ltd. 
タイで日本語を学んだあと、日本へ1年半留学。2018年、BBS (Thailand) Co., Ltd.に通訳として入社。会計やシステム、日本人とタイ人の国民性の違いも熟知した通訳者として、顧客との信頼関係の構築、会計システムの円滑な導入をサポートしている。

春山雄一郎 米国公認会計士 B-EN-G GLASIAOUS推進担当

春山雄一郎 米国公認会計士 B-EN-G GLASIAOUS推進担当
2008年ビジネスエンジニアリング株式会社に入社。15の国と地域で60社以上の海外現地法人へmcframe GA(旧A.S.I.A.)導入案件を主導。2018年よりGLASIAOUS推進を担当。

タイ特有の税制度と商習慣に注意

春山雄一郎

春山雄一郎(以下、春山):私自身、タイでの会計システム導入を何度も経験していますが、BOI(Board of Investment・タイ投資委員会)制度はタイ独特ですよね。少しかみ砕いて説明していただけますか。

山本貴文氏(以下、山本):BOIはお客様の関心も高く、タイへ進出中のほとんどの日系企業がこの奨励を受けています。税制優遇措置により、通常20%の法人税が業種によって最大13年間は非課税になるのでインパクトは大きいですね。

機械や原材料の輸入関税が免除になる恩典もあります。恩典の対象となる品目は、輸入のタイミングや部品表、製造工程など詳細な内容の事前申請が必要となり、何らかの理由で事前の申請通りに使用ができなければ、事後的な輸入関税の納付が求められたり、法人所得の税恩恵を受けられなかったりする場合があります。そのため、BOIの認可案件は在庫管理や資産管理を他の案件と明確に区分する必要があり、各社専任の担当者を置いています。これらの情報を会計システム上でどう管理すればよいかというご相談はよくいただきますね。

春山:恩恵が大きい分、事前の申請や事後の管理が煩雑ということですね。そのほか日常の税務面ではいかがでしょうか?

山本貴文氏

山本:源泉徴収制度に関しても日本とは異なります。タイでは、法人間の取引もWHT(With Holding Tax・源泉徴収税)の対象となり、代金を支払う側に納付義務があります。代金の支払い側は、請求された金額からWHT納付分を差し引いて支払い(※)、源泉徴収票を取引先に発行します。この源泉徴収票に代表者がサインすることとしている会社の場合、毎月大量の署名作業で腱鞘炎になってしまう日本人MD(Managing Director)もいるそうです。また源泉徴収票に限らず、基本的にサインはパスポートと同一表記のため、「パスポートを英字のサインにしておけばよかった」という声も聞きます。
※差し引いた分のWHTは支払いの翌月に税務当局へ納付する。

また、源泉税率はサービス料や輸送費など所得の種類によって細かく分かれており、取引ごとに発生する源泉徴収の計算や管理は、システム化されていなければ担当者の大きな負担となります。

春山:日本人MDが赴任してまず驚くのは、源泉徴収票の多さかもしれませんね。ところで、タイは税務調査が日本に比べて厳しいイメージがありますが、実際はいかがですか。

山本:還付申請をすると必ずと言っていいほど税務調査が入ります。特にWHTの還付申請には注意が必要です。源泉税率はタイの税務署にあたる歳入局が各業種に対して「これくらいは利益が出るだろう」と想定して決めたものですから、還付になるということは「売価が市場価格に対して適正でない」という判断のもと売上金額が修正され、還付を申請したのに追徴になるケースもあります。歳入局は現場の担当官に与えられた裁量が大きく、担当官によって扱いや対応が違うのも悩ましいところです。

さらにタイではVATとWHTは月次で計算して申告する必要があります。遅延や誤申告のペナルティも大きいため、タイ人の経理担当者は月次申告書の作成にかなりのエネルギーを使っています。それゆえ日本本社への月次報告は、どうしてもプライオリティが低くなりがちです。決算早期化のためには、会計システムを活用して税務申告に関わる業務負担を軽減することが効果的と言えます。システム上で日本本社への報告のための月次締め作業を行えば、税務申告書も自動作成されるような体制になっていると、経理担当者はそれをチェックするだけで済みます。

タイ人の国民性の理解がポイント

ガンピロム・ポンイヤム(アオイ)氏

春山:これだけ税制や商習慣が違うと、もし私が現地法人の日本人MDなら、ローカルな会計システムだと少し不安。日本人が使いやすく、本社とも連携しやすいシステムを導入したくなるだろうと思います。タイで日本人が会計システム導入のプロジェクトを進めたいと思ったとき、障壁になることはありますか。

ガンピロム・ポンイヤム(アオイ)氏(以下、アオイ):すべてのタイ人がそうではありませんが、「今の仕事のやり方を変えたくない」という保守的な人が多く、システム導入には否定的な反応が返ってくることが大半でしょう。また、業務のプロセスが変わるので「これまでの自分の仕事のやり方が悪かったのかな」と心配する人もいます。単純に“システム導入=業務効率化”と捉えている日本人には、こうしたタイ人の心情は理解しにくいようです。また当然ながら、システム導入時はパラレルラン(並行稼働)などで現場の仕事は増えるので、それを嫌がる人もいます。

春山:実際は、タイ人の仕事のやり方に不満があってシステム導入をするケースはほとんどないですよね。「自分の仕事もタイ人の仕事もラクにしたい」という日本人のシンプルな思いを理解してもらえると、もう少しうまくいきそうですね。ほかに知っておいたほうがよいタイ人ならではの考え方や行動はありますか。

山本:タイ人は、結論から先に話すのが苦手な人が多い印象です。質問に対して結局YESかNOか明示してくれないことも少なくありません。

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アオイ:確かにYESかNOで答えられるような単純な質問に対しても、まずは理由を説明したいと考える人は多いと思います。通訳をする際は、日本人が知りたい情報をきちんと引き出して、必要な部分だけを的確に伝えることを心がけています。タイ人同士の会話を一語一句すべて翻訳しても日本人にはわかりにくい内容もありますし、そもそも日本人が知りたいのはYESかNOだけということも多いですから。

春山雄一郎

春山:そういえば以前タイでのシステム導入の打ち合わせで、5分くらいタイ人同士で会話したあと、通訳の方が伝えてくれたのは最後の「YES」だけで「今の5分は何だったんだ?」ということがあったのですが、そういう理由だったのですね。

山本:あとは「わからない」と言わない人が多いですね。わからないことをクリアにして物事を進めていくことに積極的ではない人が多いので、システム導入時も苦労します。

春山:確かに。特に中国の案件と比べると、タイ人の国民性がよくわかります。タイ人はたいてい「マンペイライ(大丈夫)」と言ってくれるので、導入作業はスムーズに進むのですが、いざ使い始めてからトラブルが起きることがすごく多い。一方で中国人は導入作業中こそ「これはどういうこと?」と細かな追及が多くて進みが遅いものの、動き出してしまえばトラブルが起きることはほとんどありません。

成否のカギはコミュニケーションと信頼

山本:タイでのシステム導入にあたっては、わからないことを「わからない」と言ってもらえる信頼関係を作ることが大切です。とはいえプロジェクトの序盤ではまだ信頼関係も強固ではありませんから、雰囲気から察したり、本当に「マイペンライ」かを、こまめに確認したりすることも必要です。

タイで仕事をするなら、やはり基本はタイ語でしょう。私自身、タイ人と英語でやりとりをすることもありますが、細かいニュアンスまではくみ取り切れません。言語に加えて、日本人MDは経理畑の出身者ではないことも多く、タイ人の経理担当者が「自分の話をわかってくれる人が社内にいない」という環境に陥りがちです。そんなときに当社の通訳者が間に入って話を聞き、内容を理解して、日本人へ伝達して実際のアクションへとつなげます。信頼関係というのは、そうした地道なコミュニケーションでしか培われないのではないでしょうか。当社では、コミュニケーションの橋渡しができるネイティブレベルの通訳者の存在が非常に重要だと考えています。

ガンピロム・ポンイヤム(アオイ)氏

アオイ:通訳者として、まずタイ人社員の話を聞くことを心がけています。悩みや不安、ときにはグチも。日本人にうまく伝えられないことがあれば、コミュニケーションの橋渡しもします。新しいシステム導入に否定的なタイ人には、丁寧にシステム導入のメリットを説明します。話して納得してもらうには正確に通訳するための会計やシステムの知識も不可欠ですから、勉強は欠かせません。

一般的に日本人のコミュニケーションは、雑談も仕事の延長線上ですが、タイ人はもう少しフランク。私は仕事相手に携帯電話やLINEのアカウントを教えることもありますが、これは「いつでも仕事します」という意味ではなく、距離を縮めて信頼してもらうためです。日本人上司とタイ人部下も同様に、フランクに接して距離を縮めるのは有効です。

春山:過去に英語だけで進めたタイ案件を振り返ると、なんとなく回ってはいたものの、100%スムーズとは言えなかった気がします。今思うとコミュニケーション不足で、信頼関係をしっかり築けていなかったのでしょうね。

山本:信頼関係が築けているかを判断するのは難しいのですが、相談や問い合わせの数は目安のひとつになると思います。「この人に相談すれば解決してくれるだろう」と思ってくれているわけですから。

最も失敗しやすいケースは……

山本貴文氏

春山:システム導入が失敗した、もしくはコミュニケーションが原因で進み方としては効率的でなかったと思うような事例はありますか。

山本:システム導入の成否は、タイ人の“システム導入に対する姿勢”と“会社の統制状況”の2つの要因で決まることが多いですね。一般的にタイ人は目上の人を敬い、指示には従います。タイ人がシステム導入に消極的でも、日本人の統制が強ければ、プロジェクトはそこそこうまく回ります。もちろん、システム導入のメリットを説明して納得してもらうプロセスは必要です。

最も失敗しやすいのは、タイ人はシステム導入したくないと思っていて、日本人による統制が弱いケース。日本人が日本的なビジネス感覚で青写真を描くものの、現場にうまく落とし込めず、結果、タイ人が使えないシステムになってしまう。もしくは、日本人がタイ人に丸投げして、日本人には全くわからないブラックボックス化したシステムや、表面上だけで効率化につながらないシステムができあがってしまいます。

春山雄一郎

春山:そうならないように山本さんやアオイさんが間に入ってつないでいくわけですね。コミュニケーションの面では大企業のほうが日本人とタイ人の関係性が希薄な気がするのですが、会社の規模は社内コミュニケーションに影響しますか。

山本:規模よりは設立年数に左右されることが多いですね。赴任したばかりの日本人MDより、設立当初からいる30年選手のタイ人経理担当者のほうが実務をよく理解しています。一見、非効率に見える業務にも先述のタイ独自の税制度や商慣習を背景とした、れっきとした理由がある場合が多いものです。日本人がシステムで8割の業務を効率化したいと考えても、担当者が6割しか無理だと言うなら、きちんと理由をヒアリングして、落としどころを探るべきでしょう。 そうしなければ、タイ人が使えない、または使ってくれないシステムになりかねません。

成功に導く要因は

春山:逆に成功する理想のプロジェクトとはどのようなものでしょうか。

山本:タイ人もシステム導入による業務効率化のメリットを理解して、システム導入に前向きになれているパターンですね。B-EN-Gのクラウド型国際会計&ERPサービス「GLASIAOUS」を導入したヤマサ醤油のタイ現地法人、YAMASA ASIA OCEANIA社 は、タイ人と日本人が同じテーブルを囲んで議論をし、全員が共通のビジョンを持ちながらプロジェクトを進められた好例です。(※YAMASA ASIA OCEANIA社の事例はこちら

春山:日本人にとってもタイ人にとってもベストな状態ですね。最後に、システム導入のプロジェクト体制を構築するうえで、意識すべきことがあれば教えてください。

山本貴文氏

山本:コミュニケーション力の高い体制にすることですね。具体的にはネイティブレベルの通訳者に加え、会計、税務、システムという観点から日本人とタイ人双方の立場を理解している担当者がいることが重要だと考えます。ネイティブレベルの通訳者は、単なる言語の切り替えではなく、日本人とタイ人の発言内容をかみ砕き、整理して伝えることで議論を円滑にしていきます。そのうえで双方を理解している担当者が、それらの発言の背景を推察し、互いの考えに対する理解を促すようにコミュニケーションをファシリテートしていく。そんなプロジェクト体制が実現できているとタイ人と日本人の信頼関係は強固なものとなり、プロジェクトはかなりの確率で成功します。

そのような人材が社内にいればよいですが、業務内容に加えてシステムや会計の用語にも対応可能な通訳の方や日・タイ双方の会計税務制度、システムにも精通した担当者の方はそう多くはいらっしゃいません。適任者がいないと思われる場合は、ぜひ当社にご相談ください。

春山:タイで会計システムを導入する際は、国民性の違いを理解したうえで、丁寧なコミュニケーションによって信頼関係を構築し、協力体制を確立させることが大事だということですね。本日はありがとうございました。

text by Emiko Furuya / photo by Taira Tairadate, Yoko Sakamoto
※本インタビューは2021年11月現在の内容です。

BBS (Thailand) Co., Ltd.(株式会社ビジネスブレイン太田昭和・タイ現地法人)

BBS (Thailand) Co., Ltd.(株式会社ビジネスブレイン太田昭和・タイ現地法人)
タイ進出企業のMDの皆様が、営業や生産などのコア業務に集中できるよう、“管理とITのプロ”である日本人会計士とタイ人スペシャリストが、タイ現地法人の抱える経理諸問題の解決をご支援します。

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