「センコーグループ海外22拠点の会計システム統合プロジェクト事例から学ぶこと~経営意思決定のスピードアップとグローバルガバナンス経営の実践~」セミナーレポート

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「Moving Global」を掲げ、物流事業を中心に様々な分野で国際事業を強化しているセンコーグループホールディングス(以下、センコーグループ)。2023年にグローバル共通の会計システムとしてビジネスエンジニアリング(以下、B-EN-G)の「mcframe GA」を導入した。B-EN-Gは、2024年2月28日、海外拠点の経営管理に役立つ情報提供を目的に、センコーグループで本プロジェクトを牽引してきた経営戦略本部グループ管轄部の2名を招き、セミナーを開催。集まった多くの企業の経営管理部門の方々を前に、センコーグループの導入の狙いやプロジェクトのポイント、効果等を紹介してもらった。また、B-EN-GのPM(プロジェクトマネージャー)から、プロジェクトの詳細を説明した。

※本記事は2024年2月28日に開催したセミナー「センコーグループ海外22拠点の会計システム統合プロジェクト事例から学ぶこと~経営意思決定のスピードアップとグローバルガバナンス経営の実践~」の講演の一部をまとめたレポートです。

セッション「海外子会社の会計システム統合プロジェクト」

プロジェクト開始の背景
センコーグループは、「Moving Global」という目標を掲げ、M&Aを中心に海外での投資を強化。2010年に10カ所程度だった海外拠点は44カ所まで増えた(2024年2月時点)。その過程で、グループを横断した経営管理基盤や会計システムの整備が必要となり、2019年に本プロジェクトが発足した。

池内氏は、プロジェクトの目的として主に3点を挙げた。1点目は、拡大した海外拠点において不正や汚職を防ぐためのグループガバナンスの強化。2点目は、経理業務の効率化で、投資家の視点や経営管理の観点からも情報開示を迅速化することが求められていると述べた。3点目は、グローバルなレベルでの経営管理機能の強化で、これらの目的意識を社内で共有した上で、プロジェクトを進めたと語った。
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スピーカー
センコーグループホールディングス株式会社
常務理事 経営戦略本部 グループ管轄部長
池内 克年 氏


プロジェクト開始にあたりセンコーグループでは、海外子会社における財務経理基盤をルール、プロセス、人材、システムの4つに分けて定義。「ルール」には、グループ経理基本規定やガイドライン、グループ勘定科目一覧・定義書など、「プロセス」には、連結データ統一入力フォーマットの新設や連結決算プロセスの整流化など、「人材」には、海外子会社を横断的に支援・指導する経理・財務組織の設置や現地社員のスキル向上など、「システム」には、データ収集管理ツールと標準会計システムの導入などが、それぞれ着手すべき項目として含まれている。

池内氏は、「M&Aでグループ入りした海外子会社には会計ルールの文書化が未整備な先もありました。また業務プロセスにおいても、連結決算を作るにあたり、連結パッケージや勘定科目の統一の整理が不十分であったため、本社担当者の負担が大きくなっていました。人材という意味では、外国語や海外の慣習、現地会計制度に精通している人材が手薄で、システムでも各社バラバラで独自のシステムを使っているなど、課題が山積している状況でした」と当時の課題を振り返った。

プロジェクトアプローチ:2つのフェーズ

これらの課題に対して、センコーグループでは、「フェーズ①:本社側の体制と基盤整備」「フェーズ②:海外子会社での基盤整備とシステム導入」の2つのフェーズに分けてプロジェクトを進行。「社の方針として、事業規模に関係なく全社連結するという高い目標がありましたので、まずは本社側が主導してグループ統一ルールの整備から始めました」(池内氏)。具体的には、経理グループ基本規定と財務グループ基本規定を策定し、勘定科目の一覧や定義をまとめた。それぞれ日本語に加えて英語と中国語も用意することで、フェーズ②に向けて海外子会社の現地人社員にも配慮した。その後、本社システムと海外各社の現状を調査し、システム方針を立案。大きなフレームワークが見えたところで、フェーズ②での海外展開を推進するリージョン担当として東アジアとASEANに一人ずつエキスパートを派遣した。フェーズ①に2年弱の時間をかけて、フェーズ②に移行したという。

システムを導入するフェーズ②は、22拠点を目標に据えてB-EN-Gの協力を得ながら、2年弱で実行。池内氏は、プロジェクトを振り返って「フェーズ①をしっかりやっておくのが重要だったと思います。海外の子会社や国際事業部門の担当者にとっては、事業を伸ばすという最優先事項がある中で、日本から遠隔であれこれ言われるだけでは、少なからず抵抗感が生まれてしまいます。ある程度遠隔でのやり取りが前提にはなりますが、経理の規定を整備し、改善の支援をする中で、徐々に本社の財務経理担当者の顔が見えてきて、現地の信任を得ることができました。時には本社から現地に足を運んでお手伝いをしながら現場の意見にも耳を傾け、下地が整ってからフェーズ②に移行したことで、進行がスムーズにいったと思います」とコミュニケーションの大切さを語った。

現場の要望をヒアリングする中、海外拠点からは「債権債務管理や固定資産管理もERPシステム上で行いたい」といった意見がでたという。本社からは2020年のコロナ禍というタイミングで、海外拠点の監査が難しい時期だったこともあり、「システム上の情報を見ながら遠隔で監査を行いたい」といった声が上がり、それぞれを要件定義に盛り込んだ。

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mcframe GAを選んだ3つの理由

現場の要望を取りまとめたのち、会計システムのRFP(提案依頼書)に落とし込んで複数のベンダーから提案をもらいながら評価、選定を重ねて絞り込み、最終的にB-EN-Gのmcframe GAを採用した。池内氏は、評価ポイントを3点挙げた。

① アジアでの豊富な導入実績
  センコーグループの拠点が多い中国やタイなど、アジア地域での導入実績が豊富である
② 現地のサポートと伴走体制
  中国とタイに拠点があり、システム導入実績を多く積んだ自社スタッフと現地のパートナーを抱えていて、
  導入や運用に伴走できる体制がある
③ 機能要件とチャイナリスクへの対応
  システムの機能について、90%超のフィット率で、クラウド型のシステムのチャイナリスクへの懸念に対して、
  中国とシンガポールの2カ所にサーバーを設置している

22拠点で導入完了、欧米展開も視野に

海外子会社のシステム導入については、2021年から2022年にかけて、中国、タイ、シンガポール、ベトナムという形で順次進めた。導入が進むにつれて、センコーグループ社内でもナレッジが蓄積され、後半になればなるほど加速的に進んだという。現在は、当初の計画である22拠点について導入がほぼ完了し、債権債務や、固定資産の管理、財務諸表、経営管理帳票などの連結集計が可能になり、「期待した成果が出ている」と池内氏は語る。導入が完了した拠点からは「効率化が進んだ」という声も上がってきており、池内氏は「今後は欧米の拠点に対応をシフトし、さらに子会社が増えた場合も同様に導入、展開予定です」と力強く締めくくった。

 

導入後の機能開発と改善事例:本社とASEAN

セッション後半は、mcframe GA導入後にセンコーグループで主導しながら、本社とASEANで改善した事例について
紹介した。
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 スピーカー
 センコーグループホールディングス株式会社
 経営戦略本部 グループ管轄部 
 財経システム企画担当部長
 濱口 三佐夫 氏
mcframe GA導入前の経理部門では、海外子会社の経理担当者から送付された現地データ(BSやPL等)を日本語に変換しながら見ていたという。また、異なる部門が同じようなデータ提出をリクエストすることもあり、本社、海外子会社の負担と効率の悪さが課題となっていた。mcframe GA導入後は、基本機能の財務諸表のカスタムテンプレート機能を使い、BS-PLを作成。mcframe GA上で多言語表示が可能なため、変換作業を行うことなく本社では日本語で、現地では現地語でBS-PLの閲覧を実現した。濱口氏は、「セグメントや品目別の売上などの経営管理データについても、各社ごとの吸い上げと集計作業が負担となっていましたが、必要な項目について選択して出力ができ、スピードと効率が大幅に改善しました」と導入による効果を語った。加えて、グループで共通する科目については、子会社を横串で参照できるグループ管理機能の開発と活用を検討しているという。
ASEANでAR情報の自動連携を実現
続いて、ASEAN地域の子会社におけるAR(売掛金・未収金)情報の出力プロセスの改善事例を紹介した。この子会社では、mcframe GAの導入後もAR情報を手作業で入力していたという。「現場の負担が大きい作業だったこともあり、自動化を検討し、調整しながら実現しました」(濱口氏)
自動化の流れは、まず、mcframe GAから取引先マスターや課税マスターなど、mcframe GAで管理する上で必要な各種マスター情報をダウンロードし、現地の業務システムからはインボイスデータを出力する。次に、マスター情報とインボイスデータをエクセルのVBAに集約、変換して、ARインポート用のエクセルを作成。このエクセルをmcframe GAに貼り付けるだけでAR情報が自動インポートされ現場では手入力を一切することなくAR情報が登録できる。これにより、もともと毎月500件ほどあったAR情報の手入力作業は、プロセスの約9割を自動化できるようになったという。さらに、エクセルのVBAを用いた自動化は、振替伝票の作成でも応用している。

セッション「センコー様の事例から学ぶ グローバル会計統合プロジェクトのポイント」

プロジェクト成功の3つの要因

次のセッションでは、導入を支援したB-EN-Gの視点から、本プロジェクト成功の要因について語られた。主に3つのポイントが挙げられ、1点目は強いオーナーシップと現地を巻き込む力。2点目は、システムの運用フローや導入手法のテンプレート化。3点目はセンコーグループにおけるスキル蓄積とした。

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 スピーカー
 ビジネスエンジニアリング株式会社
 プロダクト事業本部 プロダクトサービス本部 
 プロダクトサービス3部
 マネージャー 豊原 健弘

B-EN-G側では、製品機能、海外の現地サポートやローカル対応、国を問わず受け入れられるデザインなどで支援した。「センコーグループのオーナーシップを持ったプロジェクト推進と弊社側の支援がうまく噛み合って、短期間で多拠点に導入することができた」(豊原氏)。続けて、3つの成功ポイントについてそれぞれを掘り下げて説明した。

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① 強いオーナーシップと現地を巻き込む力
まず初めに計画の策定フェーズとして、センコーグループ内でmcframe GA の機能がどういうものかという知識を習得してもらい、プロジェクト全体の運用ルールを構築したという。3カ月ほどかけて、2社(センコーグループとB-EN-G)間の関係性を構築しながら進行した。その後、導入フェーズに入るタイミングでは、ASEANと中国それぞれにシステム導入の旗振り役としてリージョンPL(プロジェクトリーダー)を赴任させた。豊原氏は、リージョンPLについて「大きなポイントは、本社と現地の調整役として機能したことです。リモートではなかなか伝わらないような困り事をきめ細かく拾える体制を作ることができ、成功要因の一つとなりました」と強調した。

同時にセンコーグループは、会議体も工夫していたという。上位の会議には各地域のトップや、各事業部門トップ、プロジェクトオーナーが参加。システム部門だけでなく、事業部門や地域のトップを巻き込んで進捗確認、課題報告と共有を行うことで、ステークホルダーマネジメントを徹底的に実践した。一方、システムに関連する会議では、B-EN-Gと密に連携を取りながら議論を重ね、現地の課題把握に重きを置いて、困っているポイントや改善点を地道に拾いながら、トップダウンとボトムアップの両方から巻き込んでいったという。「結果として、子会社ごとに既存のシステムや運用方法があるなかで、新しいシステムに対する反発を極力抑えることに繋がった」と豊原氏は分析した。

② 導入手法のテンプレート化
導入手法については、グローバル(全体)と地域でそれぞれ共通項目を決めて標準化した。中国については、国が定める会計基準と地域ごとのルールがあり、それらを踏まえて地域の標準化を進行。中国国内に複数の拠点があるため、個別のマスター、システムのパラメータ、マニュアルなどをパイロット拠点からテンプレート化し、他の拠点については、個別の事情に合わせてチューニングしながら、徹底した標準化を実践した。「システムの使い方も含めて標準化されるので、将来的な業務の標準化に繋がる大きな部分だと思っています」(豊原氏)

③ スキルの蓄積
センコーグループでは、導入過程のスキル蓄積についても積極的に取り組んだという。導入中のトレーニングや稼働後の社内勉強会などを行いながら中国など小規模拠点ではセルフ導入も実践。トレーニングの様子を動画で記録し、自社でマニュアルなどのドキュメントも残すなど、ノウハウ蓄積に対する工夫をしたことで、セルフ導入や個別の改善事例に繋がった。

豊原氏は、3つのポイントの共通点として「システム導入をセンコーグループが主体となり自社のものとして実践されたこと」を挙げたうえで、「プロジェクトは、本稼働から2年が経過して、システムを活用するフェーズに入りました。B-EN-Gからは新たな機能の活用提案、現地サポートを今後も維持・継続させていただくので、引き続きmcframe GAを使い倒していただきたいです」と次のステップも見据えて、会場の池内、濱口両氏に想いを伝えた。

セミナー終了後、参加者からは、海外子会社の会計管理の悩みや、ERPシステム導入時に現地の希望要件をどこまで反映させたらよいかなど、当事者の視点から積極的に質問が寄せられ、同じ課題を持つ担当者が多いことと、本テーマに関する関心の高さが伺えた。


センコーグループホールディングス株式会社
1916年創業の総合物流企業。総合スーパー・ドラッグストア・ホームセンター・アパレル・食品などの流通業界をはじめ、住宅・建設業界や化学製品などのケミカル業界を中心に国内外で物流サービスを提供。アジア・欧米の44カ所に事業拠点を設置し、国際物流事業を強化。物流事業に留まらず、商社事業や研修事業、ホテル・レストラン、介護・家事代行、農薬など幅広く展開している。

 (文・共同通信デジタル)
※本記事は2024年2月現在の内容です。
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海外進出企業の情報システム/デジタル技術活用に関する動向調査 (2024年版)

B-EN-Gは、海外拠点を持つ日本企業の日本本社および海外現地法人を対象に、デロイト トーマツ グループのDTFAインスティテュート監修の下で「海外進出企業の情報システム/デジタル技術活用に関する動向調査」を実施しました。
本調査は、海外での経済・社会情勢が激しく変動している中で、情報システムやデジタル技術活用の実態と課題を明らかにすることを目的とし、事業規模、業種・業態を問わず、アジアを中心とする海外に現地法人を持つ日本企業を対象としました。

詳細資料のダウンロードはこちらから

海外進出企業の情報システム/デジタル技術活用に関する動向調査 分析レポー

海外進出企業の情報システム/デジタル技術活用に関する動向調査 分析レポート

本調査は、海外進出企業を取り巻く環境がコロナ禍を経て大きく変化している中で、情報システムやデジタル技術活用の実態と課題を明らかにすることを目的とし、事業規模、業種・業態を問わず、アジアを中心とする海外に現地法人を持つ日本企業を対象としました。

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ASEAN諸国におけるデジタル化の実態

ASEAN諸国におけるデジタル化の実態

「海外進出企業の情報システム/デジタル技術活用に関する動向調査 分析レポート」を基にASEAN諸国の実態を解説。
・最新のデジタル技術を使って攻めの投資へシフト
・国ごとに違うASEAN諸国の状況
・日本本社と現地法人の意識の違い
・3つの提言など

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