海外進出企業がリアルを語る② 組織の強みを引き出すリスクマネジメント
現地法人が機動的に活動できるようにするためには日本本社からの権限移譲が欠かせない。一方で、無防備に委譲すれば内部統制などの新たな問題も生じてしまう。昨年、5カ所目の海外拠点を立ち上げた非鉄金属商社「光洋マテリカ」では、権限委譲とリスクマネジメントを両立させることで、現地法人が活動しやすく、迅速で正確な判断が行える組織づくりにつなげている。これまでの取り組みや押さえるべきポイントについて、同社の川村 尚広氏が解説した。
※本記事は2022年11月29日に開催したウェビナー「”GLASIAOUS(グラシアス) NEXT 2022” 「変化に強い企業」になる次代の経営戦略 ~不透明な時代を開く、「攻め」と「守り」のリスクマネジメントとは~」の講演の一部をまとめたレポートです。
海外事業戦略室が果たした役割
戦略室には、海外管掌役員、営業統括役員、各営業の部門長、私のような管理部門の部長、各国の現地法人のトップが兼務という形で在籍。横断的に社内で情報共有し、少しでも変化をキャッチし、素早い経営判断につなげる取り組みを行っております。
顧客の要望などもあり、2019年から調査を開始し、社内的に法人設立の決定も出ていたのですが、新型コロナウイルス禍で保留になっていました。2022年に再度、海外事業戦略室で検討し、すぐにも稼働させようということになり、それを経営に報告。社内承認を迅速にとり、スピード感を持って、念願のベトナム進出を実現することができました。
海外事業戦略室は、社内の部門長が集っているため、360度の視点で判断をできるのが最大の特長です。現地の法的手続きは我々でコントロールできませんが、社内的な手続きはなるべく早く実施し、次のステップにつなげていくことができます。
そのため、「権限移譲」も非常に重要でした。今回のベトナムであれば、そのベトナム設立に携わった者に、一定の権限移譲が行われております。それが、なぜ大事かというと、当社のような中堅の規模や、さらに小規模の会社の場合、どうしても現地が日本本社に伺いを立てて、そこから行動を起こすということになりがちだからです。
そうしたタイムラグをなるべくなくし、最終的に素早い経営判断ができる土壌を我々は非常に重要視してきました。
現地法人の情報をとりにいける環境を
日本本社としては、現地法人からの報告を待つのみではなく、情報をとりにいける環境を整えました。そこで役に立ったのが、ビジネスエンジニアリング様から提供いただいている国際会計/ERPサービス「GLASIAOUS(グラシアス)」の存在でした。
グラシアスは、クラウドアプリケーションのためいつでもどこでも接続でき、多言語・多通貨で使えます。現地はベトナム語だったり英語だったり、現地の言葉で使ってもらい、日本本社は日本語で使用する。
ベトナム以外の海外拠点でもいずれも導入済みですので、日本本社で情報を集約して確認できる。財務経理部の私の視点でみますと、連結財務諸表を作らないといけないという時に数字の分からない部分や見えづらい部分が、グラシアスを使えば現地に聞かなくても一定程度まで我々で見て判断できるというところが非常に助かっています。
ERPシステムでもあるグラシアスは業務管理の機能にも富み、内部統制でも有効でした。きちんとした数字は内部統制が効いていないと上がってこないので、非常に重要です。
ただ、我々としてはグラシアスで現地法人をがんじがらめにするのではなく、我々が情報を吸い上げて理解することで、逆に現地が活動しやすくなることを狙いとしていました。結果的に迅速で正確な判断を現地法人が行える基盤づくりを進められた上、内部統制も強化することもできました。
社内で構築された「OODAループ」
先行きの見えない状況下で変化に適応して成果を得るため、「観察」「判断」「決定」「行動」を繰り返し行う「OODAループ」という意思決定方法があります。
最初から意識したわけではありませんが、海外事業戦略室の立ち上げやグラシアスの活用、現地法人への権限移譲などに取り組んできたことが実り、結果として、様々なリスクに対応できるOODAループが社内で自然と構築できてきていたように感じます。
冒頭、VUCAの時代と申し上げた通り、非常に多様なリスクにさらされる時代です。コーポレート機能を担う部門が果たすべき役割としましては、リスクや変化を感知して対応する基盤づくりを担うことだと考えます。
これは「守り」のリスクマネジメントでもありますが、そこからしっかりとOODAループを回し、迅速な判断が行える組織づくりに取り組んでいくことによって「攻め」のリスクマネジメントにもつながっていく。攻守両面で取り組みを充実させることが重要だと考えています。
財務経理の分野では今後、電子帳簿保存法やインボイス制度など法令対応で大きな変化が求められています。単純に法令対応するだけではなく、法令に沿ったやり方の中でもがより動きやすくなるような基盤づくりをさらに進めていきたいと考えます。
過去の手法や成功体験にこだわるのではなく、リスクや変化に柔軟に対応でき、その上で成長を目指せる強い組織にしていきたいです。
※本記事は2023年3月現在の内容です。