数年ぶりに戻ってきた帰任者が直面する「浦島太郎状態」のリアル

長期間にわたる海外駐在を経験したビジネスマンにとって、日本は必ずしも「懐かしい場所」であるとは限りません。人間関係やオフィス環境も一変した職場で、「浦島太郎」のような感覚を覚えることもあるようです。今回は、ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)グループで海外赴任を経験した佐々木氏と児玉氏に、帰任後に感じたこと、日本の職場に対する発見、今後の帰任者に向けたアドバイスなどを語っていただきました。

【話者紹介】

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佐々木 淳(ささき・じゅん)
ビジネスエンジニアリング株式会社
プロダクト事業部 営業本部 海外営業部 部長

2003年入社。2010年から中国の上海拠点で8年間営業責任者を経験し、2019年から約4年間インドネシアの法人代表を務めた。
2023年7月に日本本社に帰任。現在は海外営業部長を務める。

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児玉 淳也(こだま・じゅんや)
ビジネスエンジニアリング株式会社
ソリューション事業本部 営業本部 営業開発部 副部長
兼 B-EN-G上海副総経理

2006年入社。2019年、営業出身者として初めてB-EN-G上海の副総経理に就任し、約5年間にわたり勤務。2024年3月に帰国したが、いまも上海拠点での仕事は「兼務」というかたちで続いている。
中小企業診断士の資格を保有。

戻ってきた日本本社の印象は「知らない人が増えた」

――お二人とも、長期間にわたり日本を離れていらっしゃいました。まず、帰国直後に率直に感じたことを教えてください。

佐々木 淳氏(以下、佐々木氏): 帰国したら、自分が日本にいた14年前よりも、3割ほど従業員数が増えていました。人の入れ替わりもあり「知らないメンバーが多いな」というのが率直な感想でした。
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一方、もともと知り合いだった人からは、帰国早々、「定年を迎えました」と相次いであいさつを受けました。それだけ長い期間を海外で過ごしたということですが、まさに浦島太郎みたいな状態。「寂しいなぁ」という気持ちが強かったですね。

児玉 淳也氏(以下、児玉氏):オフィスも綺麗になって「大きな会社になったな」と思いつつ、佐々木さんと同様、知らない人が増えたなと感じました。特にコロナ禍でテレワークが浸透し、顔を合わせる機会が減ったことで、その印象が強まったと思います。
そんな中、スポーツ大会やランチ会など、会社が設けてくれているチームビルディングの場が、私にとっては貴重な機会でした。この間も、フットサル、バスケットボールなど、新卒2年目の社員に混ざって参加しましたね。

――自分の会社であるとはいえ、人間関係の構築から始める必要があるわけですね。

佐々木氏:そうですね。私の場合は10年以上海外にいましたから、「日本に戻って来たな」という感覚はほぼありません。懐かしいというより、「これが日本か」という感じです。まったく新しい環境に飛び込むのと同じ心境でした。

――仕事の進め方など、帰国後に感じた海外とのギャップはありますか。

佐々木氏:日本の仕事の進め方は時間がかかりますね。海外では現地法人のトップだったので、「自分が責任を取る」と腹をくくれば、3秒で物事は決します。img_3ところが日本では、部署間のすり合わせが不可欠で、会議を3回開いても、施策を決められない場合もあります。

これは一長一短ありますね。時間をかける日本の進め方では、決定に対する責任も、合議の過程で分散されていきます。責任の所在が分かりにくくなる反面、会議を重ねるなかで、欠けていた視点に気付くことも多々ある。それはそれで大事なプロセスだと感じています。

児玉氏:確かに、日本の進め方は「ここまでする必要があるのかな」と感じることもままあります。ただ、「リスクを抑える・回避する」という意味では、優れていると思いますね。img_4いまも中国での事業を兼務して仕事の進め方を見直していますが、日本のやり方を参考にしている点も多いです。

あと、やっぱり、日本は残業をする人が多いですね。海外では、定時の3分後にはみんな帰っているのが普通でしたから。海外駐在で残業をしない環境に慣れ切ってしまったので、帰国後に感覚を戻すのが結構大変でした。

――リモートワークの定着具合に差はあるでしょうか。

児玉氏:中国では、テレワークはほぼありませんでしたね。日本ではリモートと出社のハイブリッド勤務が定着しているので、話したい相手と会える時、会えない時がある。リズムがつかみづらいな、と思うこともあります。

佐々木氏:これは文化の違いもありますね。中国が対面でのコミュニケーションを尊重している訳ではなく、「リモートでの勤務を信用していない」のではないかと感じます。

――帰国後の仕事や生活で、慣れなくて苦労したことはありましたか。

佐々木氏:仕事で使うシステムの種類と、会議の多さには、慣れるまで時間がかかりました。どのシステムからどんな数字を取り、いつ、どこで報告する必要があるのか。それを漏れなくこなすだけでも一苦労でした。

児玉氏:確かに、海外にいる間に新たに導入されたツールなどもありますしね。その点、日本本社と海外拠点で共通したシステムを使っていると、帰任者と赴任者の双方の負担を少なくできますね。

日常のこまごましたギャップもありました。たとえばタクシーの運賃とか。中国は安かったのですが、同じ感覚で日本のタクシーに乗ろうとすると、予想外の値段に驚くこともあります。

「かなり捨てたつもりなのに…」日本の家に、物が入りきらない

――帰国されるタイミングで、何か苦労されたことはありましたか。

佐々木氏:住まいと、子どもの学校選びは特に苦労しました。特に家は、仲介業者にリモートで内覧させてもらい、決めました。日本の家は、海外の家よりずっと狭くなってしまうのは、如何ともしがたいですね。

帰国時には、かなりの所持品を捨てたつもりでしたが、それでも日本の家には入りきらない。収納スペースが広い空間で暮らすなかで、知らず知らずのうちに物が増えていたようです。img_5

また、子どもは0歳の時から中国にいて、現地のインターナショナル校に通っていました。日本への帰国後に通う学校は、妻が一生懸命選んでいましたね。ただ、結局また日本を出て、東南アジアに留学することになりました。子どもにとっては、日本に滞在している今が「イレギュラー」で、海外で過ごす方が自然なのだろうと受け止めています。

児玉氏img_6私は手荷物も少なかったですし、日本での家探しの必要もなかったので、そこまで大きな苦労はしなかったですね。

ただ、「ありがたいな」と思ったことがひとつありました。上司が調整をしてくれて、早い段階から異動先の部署も含めて教えてもらったことです。時間的余裕をもって心の準備ができたので、感謝しています。

佐々木氏:そうそう、「どんな部署に行くのかわからない」という状態で帰国するのとは大違いですからね。早めに帰任後の担務が分かっていることは、大事なことだと思います。

あと帰任の際に大きな懸念になるのが、後任への引継ぎですね。自分はスムーズにできましたが、やはり数年かけて築いた関係、育てた事業を任せるわけですから。

トップが変わったことで現地スタッフが辞めてしまうという話も聞きますし、赴任の際には相当気を使った記憶があります。本当は後任者があらかじめ、出張などの機会を使って現地のスタッフに顔を知ってもらう機会を作ったほうがいいと思います。

――そのほか、将来の帰任者に、気を付けてほしいことはありますか。

佐々木氏:案外、ペットの入国手続きが大変です。インドネシアで飼っていた猫と一緒に帰国したのですが、血液検査など、検疫を通すための手続きには約1年かかりました。ペットがいる方は気を付けてください。

あと、家具などは、なるべく現地で処分したほうがいいですね。日本に持って帰ると、処分にお金がかかります。海外であれば、「これいらない?」と言って置いておいたら、誰かが持って行ってくれます。(笑)

もっと社内に海外ビジネスの「当事者」を

――海外経験を通じて得たものが、帰国後の仕事に生きている点はありますか。

佐々木氏:海外営業を担当していますが、顧客に現地の状況を詳しく説明できるのは大きなメリットだと感じます。「海外の現地にシステムを導入したい」という顧客に対し、インフラの状況や国の制度などを案内できますから。

たとえばインドネシアの事情で言えば、ラマダン(断食月)の期間中に要件定義はしないほうがいいとか、金曜日は礼拝の時間が長いから会議の設定は避けた方がいいとか。顧客から質問されることが多く、「役に立っている」という手ごたえは感じています。

児玉氏:私は仕事に対する価値観が変わりましたね。中国の人々は、家族のつながりをすごく大事にするので、その姿に影響されたのだと思います。

仕事の代わりは誰かが務めてくれますが、家族の代わりは誰もいない。コロナ禍によるロックダウンで妻と1年以上離れて暮らし、それが骨身に染みました。日本人は、仕事第一主義みたいな思考に陥りがちですが、たとえば身内に不幸があった人がいれば、周囲のみんなで支えていけるような職場を作りたいなと考えています。

――海外赴任の経験者として、会社に伝えたいことはありますか。

児玉氏:若干細かい話になりますが、物価や為替などが、現地の最新事情と乖離することが起こりやすいので、意識して見ていてほしいなと思います。出張などで、少しでも海外に足を運んでいただけると、実情を肌で感じてもらえるのではないでしょうか。
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私は声を上げて手当などの規定を改訂してもらったのですが、現地のことを肌感覚で知る取り組みは、積極的にしてほしいなと思います。

佐々木氏:私は、「社員みんなが一度は海外現地法人のトップを経験してもいいんじゃないか」と思っています。これは、あながち冗談ではなく、それくらい貴重な経験だったということです。「自分が動かないと、何も動かない」という環境だからこそ身に付く所作があると思います。
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大きな組織では、「みんな問題に気付いているのに、誰も動かない」という状況が起こりがちです。海外で経営的な視点が身に付くと、自分の役割に閉じこもることなく、「もっと利益や、顧客と社員の満足につなげたい」と、自発的に動けるようになると思います。

児玉氏:あと、帰国後に痛感したのですが、日本って海外ビジネスに関心のある人がそこまでいないんですよね。出張に行きたい人はいても、駐在したいという人は一握り。「海外ビジネスは会社の一部の人がやるものだ」と思われている節があります。

もっと海外ビジネスに興味を持って、巻き込まれて、その可能性を楽しんでほしいなと思っています。これは、自分がひそかに「啓発したいな」と考えている、隠れたミッションです。

佐々木さんの言うように、多くの社員に現地法人のトップを経験してもらいたいですが、席にも限りがあるので、長期出張や研修のような形でもよいので海外ビジネスの「当事者」が増える仕組みや制度を会社として作っていけると、帰任者にとっても赴任者にとってもプラスになると思います。

(文・共同通信デジタル / 撮影・Taira Tairadate)
※本記事は2024年8月現在の内容です。
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B-EN-G上海

2004年、上海駐在員事務所を開設し、2010年には発展形として畢恩吉商務信息系統工程(上海)有限公司が上海市内に設立された。中国に進出している日系製造業を中心に、生産管理や原価管理、IoTソリューション等の導入支援やコンサルティングを提供し、デジタル化支援を行っている。B-EN-G上海には約30人の中国人社員が在籍、日本語が堪能な社員が多い。

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