インドネシアでのマネジメント 現地スタッフを動かす4つの「要点」 ~システム導入プロジェクト成功への勘所~

どう変わった?日系海外進出企業のIT活用  海外現地法人と日本本社の動向調査から推察する

約2億7千万人と世界第4位の人口を誇り、豊富な天然資源に恵まれるインドネシア。安定した経済成長を続け、各国企業の投資や進出も相次ぐ。一方、いざビジネスを展開するとなると、文化や気質の違いをはじめ、自然災害の多さなど現地事情に悩まされることも多いという。同国で日系企業のシステム導入のサポートにあたる「B-EN-Gインドネシア」の社員が、日系企業が抱える課題や現場の悩み、また、システム導入プロジェクトの成功に向けたマネジメントの勘所を語る。

インドネシアでIT活用が難航する訳

インドネシアは経済や人口規模から「ASEANの盟主」とも呼ばれる。働き手である生産年齢人口(15歳~64歳)が6割強と豊富な労働力を擁し、天然ガスや石油、鉱物類といった資源にも恵まれたASEANを代表する国の一つだ。そんな同国で、日系企業のシステム導入やIT活用のサポート事業を展開しているのが、ビジネスエンジニアリング株式会社のインドネシア現地法人「B-EN-Gインドネシア」(以下、BID)のIwan Budi Sutanto (イワン)さんだ。同国出身で大学卒業後に来日。日本の大手製造業のグループ会社などでIT技術者として経験を積み、帰国後に日本語の語学力とIT技術を生かしたいとBIDに入社した。

日系企業のIT活用の現場を多くみてきたイワンさん。新型コロナウイルス禍を経て、同国でもリモートワークが一般化し現場に行けないことも増え、製造現場のデータを取得するシステムを入れたいといった相談が増えたという。一方、実際に導入プロジェクトを進めようとすると、日本人の管理職とローカルスタッフとの意思疎通がうまくいかず、プロジェクトが難航する場面もたびたび目にしてきた。
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「インドネシア側の現地法人にITのプロジェクトを推進する体制が整っていないほか、インドネシアに赴任する日本人管理職についても、多くが製造現場に強い方や経理に特化した方などで、IT出身者がいない印象です。互いにIT知識のレベル感が合わない上、意思疎通でもつまずき、決めた目標に対しお互い協力し合って進められないという悩みを持つお客様が多いようです」

 

現地スタッフとどう意思疎通する?

人材の問題は一朝一夕には解決が難しい。では、意思疎通のギャップをどう克服していけばいいのか。イワンさんは、日本人管理職がローカルスタッフと仕事を進める上での4つのポイントを挙げる。

一つ目は、認識のズレが常に起きることを前提にコミュニケーションをとることだ。1万3千余りの島々からなるインドネシアでは公用語をインドネシア語とするが、ジャワ島ではジャワ語やスンダ語などというように、無数の地方語が存在。多言語社会であるとの認識が不可欠という。

「多くの地方語があり、通訳を介しても、英語だけでもニュアンスを理解するのに限界があります。そのため常に、日本人管理職とローカルスタッフが同じ目標、同じ認識であることを確認し続けることが最も重要となります。これがうまくいかなければ、目標と違う方向にプロジェクトが進んでいってしまいます」とイワンさんは語る。

二つ目は、集団行動や協調性を重んじるインドネシアの人々の気質に合わせたマネジメントを展開することだ。例えば、日本人管理職が説明を行った後に「わかりましたか」とたずねると、ローカルスタッフは十分に理解していなくても「はい」「わかりました」と答えてしまいがちだという。「頑張って説明してくれたのに『わかっていない』と答えることは失礼だと考えたり、『わかっていない』と答えることで再度説明を受ければ自分が業務の流れを止めてしまうと恐れたりして、本音を隠してしまうケースが多くあります」

実際には説明を理解していないのに自分なりに解釈して作業を開始してしまうため、説明した内容と全く違う作業となり、結果としてトラブルなどにつながりやすいという。イワンさんは「ローカルスタッフへの説明に丁寧過ぎるということはありません。PCでマニュアルを作成・配布するだけでなく、ホワイトボードや紙などに図やイラストを描いて説明するなど、工夫することも必要です」と助言する。業務の進捗確認も「できているところまで見せて」と現状を具体的に把握していくことが大事だという。

日本人の常識が通用しない現地事情

三つ目は、ローカルスタッフのモチベーションをいかに引き出すかを常に工夫することだ。「二つ目のポイントでインドネシア人の気質に触れましたが、アナログ作業で非効率な状況でも、現状がうまくいっていたら『それでいいじゃないか』と新しい試みにモチベーションを持てないローカルスタッフが多いです」とイワンさん。日本の本社側が現地法人のプロジェクトの状況を把握できていないことも多く、さまざまな既存業務を抱えるローカルスタッフの業務負荷が高止まりしていることも変化を嫌う一因になっているという。

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「ローカルスタッフの業務負荷を軽減するための新しいシステムであっても、システム導入前の入力テストで少しでも不具合があれば、データ入力を止めたり、作業を諦めたりしてテストが進まなくなってしまう。仕事がラクになるとか、ミスが起きにくくなるといったメリットを丁寧に伝え、モチベーションを引き出すマネジメントの工夫が欠かせません」

四つ目は、日本の常識が通用しない「現地事情」を受け入れることだ。その一つが、世界最悪ともいわれる首都ジャカルタの交通渋滞だ。迂回路が乏しく、バス以外の交通手段が限られるため、時間通りに移動することが極めて難しいという。もう一つが、バンジルと呼ばれる洪水の頻発だ。10~3月の雨季は突然の大雨が相次ぐ上、道路もすぐに冠水する。

「日本なら決まった時間に始業し、約束通りの時間に会議を始めるのが常識ですが、インドネシアはそれが難しい。渋滞に巻き込まれればどうしようもないです。渋滞がなければ2 時間で着くはずの目的地に、余裕をもって午前4時や5時に家を出ても、結局、着くのが午前10時などになってしまう。また、洪水になれば道路は封鎖され、もはや移動すらできなくなります」とイワンさん。遅刻したローカルスタッフがその理由を渋滞や洪水と真面目に説明しても、日本人管理職が信用せず、関係がぎくしゃくしてしまうこともよくあるという。「予定通りに物事が進まないことを受け入れ、スタッフが話しやすい雰囲気をつくって信頼関係を構築していただきたい」とイワンさんはアドバイスする。

プロジェクト終盤に上がった本音

イワンさんは、日本語がわかるインドネシア人のIT技術者として、日本人管理職とローカルスタッフとのコミュニケーションの橋渡しをし、システム導入をサポートしてきた。

例えば、日系企業が日本本社からの要請を受け、ペーパーレス化を推進しようとしたケースでは、こんなことが起きた。タブレット端末を活用してペーパーレス化を実現するプロジェクトで、導入も終盤に差しかかっていたところ、ローカルスタッフから「実は困っています」との声がイワンさんに寄せられた。タブレット端末で入力しやすいように元の紙の帳票レイアウトから変更した仕様で進めていたが、元の帳票レイアウトは取引先と取り決められたものであり、紙で提出する必要があるという。

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「日本人管理職に『紙での出力が決められているお客さんがいます』との一言が言えなかったようです。プロジェクト終了前にわかってよかったのですが、ローカルスタッフとのコミュニケーションは、日本人管理職が思っている以上に取れていないケースが多くあるように思います」

イワンさんをはじめBIDのメンバーは、顧客である日系企業のミーティングにシステム導入前から加わり、日本人管理職とローカルスタッフ間の通訳はもちろんのこと、双方で理解が深まるコミュ二ケーションの仲介役となることを心がけているという。

日本人管理職にはインドネシア人の気質も踏まえた上で声掛けの助言を行う。先ほどの例では、早期に報告しなかったミスを責めずに、最終的に報告を上げたことを評価する―といった具合だ。一方、ローカルスタッフには、日本人管理職の考えを心に響くように伝えることで、日本人管理職と同じ目標、同じ認識でプロジェクトが進められる体制づくりを後押ししていく。
さらにBIDでは、システム稼働後の運用フェーズにおいてもシステムを継続していくための手厚いサポートも提供している。インドネシアでは他の地域と同様、日本人管理職の異動やローカルスタッフの退職が大いにありえるが、その際にはBIDの担当者が新任者へシステムそのものや運用方法などを説明し、システムがブラックボックス化しないようにしている。

課題をともに乗り越える「伴走者」

インドネシアは、首都ジャカルタの苛烈な交通渋滞や人口過密といった都市課題の克服と外国からの投資呼び込みのため、2024年から首都機能を別の場所に順次移転する計画を打ち出している。また、2045年には国内総生産(GDP)で世界5位入りを目指す国家ビジョンを掲げるなど、多くの期待を内外から集めようとしている。貧富や教育の格差、自然災害の多さといった現実とも向き合いながら、さらなる発展を模索していくことになる。

そんな同国を本拠とするBIDは、製造業を中心に70社以上の日系企業のシステム導入やIT活用をサポートしてきた実績が、大きな強みとなっているという。イワンさんは「プロジェクトを成功に導くロードマップを共に描くことはもちろんですが、各種ソリューションの提案ができるので、幅広い分野でお客様を支援し、お客様のビジネスを拡大していくよう努めています」と力を込める。

「中国やタイなどと比べるとインドネシアでの日系企業のオペレーションはまだまだ知見が足りない部分があると思います。BIDにご相談をいただければ、お客様の困りごとの解決に貢献できることが多くあると考えています」とイワンさん。日系企業の課題をともに乗り越えていく「伴走者」として、イワンさんらBIDのメンバーはその役割を果たしていく考えだ。

(文・共同通信デジタル)
※本インタビューは2022年9月現在の内容です。
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B-EN-Gインドネシア

2015年、ASEANではタイ、シンガポールに続く3拠点目としてジャカルタ市内に設立された。インドネシアに進出している日系企業を中心に、生産管理や原価管理、会計管理、IoTソリューション等の導入支援やコンサルティングを提供し、デジタル化支援を行っている。B-EN-Gインドネシアには約16人の現地社員が在籍、全員英語も話し、日本語が堪能な現地社員も数名いる。

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