本当のところ、どうですか?中国人社員に聞く日系企業の魅力と課題
これまで「世界の工場」として地位を確立してきた中国。だが近年は急速な発展に伴い、人件費の上昇や人手不足の課題も顕在化。個人消費や外需の低迷、長引く不動産不況も重なり、経済成長の鈍化への懸念も高まっている。世界経済を支えてきた中国が新たな局面を迎える中、日系企業の現地法人はいかなる組織づくりを進めるべきか。また、どのような強みを伸ばしていけばいいのか。ビジネスエンジニアリングの中国現地法人「B-EN-G上海」で座談会を実施し、中国と日本の双方を知るローカルスタッフの視点から今後へのヒントや道筋を探った。
【話者紹介】
王 奕(オウ エキ)さん
財務・総務課長、財務・総務・採用担当
入社16年目
万 妍(ワン イェン)さん
営業部 営業コンサルタント、営業・マーケティング担当
入社7年目
嵇 匀千(ジ ユンセン)さん
基幹システム部 ERPコンサルタント、ERP担当
入社4年目
なぜ、日系企業で働くことを選んだのか
――まず、日系企業の現地法人であるB-EN-G上海で働くことを決めた理由についてお聞かせください。万 妍さん(以下、万さん):元々、前職で日系のIT企業に勤めていたため、日系企業の知り合いが多くいました。その中にB-EN-G上海を離職された方がいて、その方から「働きやすかったよ」と聞きました。辞めた人がそこまで薦める会社ということで興味を持ち、入社を希望しました。
嵇 匀千さん(以下、嵇さん):自分の価値を高められると感じたことが大きいです。B-EN-G上海は、ERP(基幹業務パッケージ)という製造業の経営に欠かせない基幹システムを扱っています。コンサルタントとしてお客さまをはじめ、パッケージベンダーや社内技術担当者などと調整をしながら、いかに課題を乗り越えて導入を果たせるか。そうしたコミュニケーションが好きなので、やりがいを感じられると思いました。
王 奕さん(以下、王さん):音楽など日本の文化に親しみを感じ、夜間大学で日本語を勉強していたので、その語学力を生かしたいと日系企業を選びました。海外展開する日系企業の会計業務に対応したERPを提供するIT企業に入社し、その事業がビジネスエンジニアリングに事業譲渡されて以降、B-EN-G上海で働き続けています。
――皆さん、流ちょうに日本語を話されていますね。言葉以外の部分でも、日系企業で働く上でどのようなことを心掛けていますか。
嵇さん:日本の会社は、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)という言葉があるように、こまめなコミュニケーションが求められるということを入社前から聞いていました。そのため、入社後も報告・連絡・相談を忘れず、丁寧にコミュニケーションをとっていくというのは意識し続けています。
採用で中国企業に「競り負け」も
――ローカルスタッフとして日系企業で働く中で、皆さんの視点から疑問に感じていることや困ったことについてお聞かせください。――採用面で感じている課題などはありますか。
王さん:昔は、多くの人が日系企業に「入りたい」と思っていました。でも今は昔ほど注目が集まらなくなっているように感じます。採用担当でもあるので、なおさらそのような変化を実感しています。面接を通じて「いい人材だな」と思っていた人が、終盤で中国企業の方を選んで辞退するというような、競り負けるケースも増えています。待遇面で中国企業との差がなくなってきたか、場合によっては、中国企業の方がよいという判断に変わってきているのかもしれません。
また、そうした待遇面だけではなく、給与は低くても将来の発展性を考えて中国企業を選ぶというケースも少なくないです。採用活動では待遇面だけではなく、仕事内容など応募者を引きつける要素を打ち出すことも必要になってきています。
「せっかく中国にいるのに…」
――採用面で日系企業の存在感が薄れてきている一方、中国企業が選ばれているという話は、大変気になるテーマです。採用だけでなくビジネスでも同じような現象が増えていると聞きます。顧客に選ばれるようになった中国企業に対し、日系企業は組織のあり方も含め、どのような課題があるように感じていますか。
万さん:私は、実際に営業をしていく中で日系企業の申請・承認にかかる時間が長いと感じています。想像するに、組織のあり方として決裁までの承認者の数が多いという面があるのではないでしょうか。また、請求や支払いなどの提出書類についても、会社ごとに細かくフォーマットが決まっていて共通のテンプレートがないことも効率が悪いと感じるところがありますね。
――日本企業は慎重に検討するため相応の時間やプロセスを重視するのですが、現地の皆さんには時間がかかり過ぎていると感じられる部分もあるということなんですね。そうした部分も含め、日系企業が中国でさらに適応し、発展していくためのアイデアはありますか。
万さん:中国で活動している日系企業の多くは、同じく中国に進出している日系企業を顧客にしているケースが多く、せっかく中国にいるのに日系企業同士のビジネスに留まっているようにも感じます。信頼できる中国のローカルパートナーを発掘し、ビジネスや人脈を広げていくのが、突破口を開く手段の一つにもなっていくのではないでしょうか。
――B-EN-G上海で今も仕事を続けている理由や、組織のあり方として良いと感じている点についても教えてください。
万さん:業務経験の中でうれしかったのは、お客さまにERP製品の提案をした際、複数の競合他社と比較すると価格面で希望の条件に達していなかったにもかかわらず、サービス面を含めて評価いただき、選ばれた時です。価格だけではない、サービスまで含めた日系企業ならではの提案で支持された経験が忘れられません。
王さん:組織のメンバーを互いに大事するところが、この会社で働いてよかったと思うところです。それから、B-EN-G上海は日系企業でありながら、中国企業のように臨機応変に動ける良さもあり、前向きにいろいろなことをやらせてもらえます。一方で日系企業としてチームで動くことも大事にしているので、中国企業と日系企業のそれぞれの良さを合わせたような組織になっていて、働きやすさとやりがいを感じられています。
組織で「内巻」起こさぬように
現地法人の前線を支えるローカルスタッフの3人が日系企業の組織に感じている疑問点や中国企業との違いを語り合ったが、組織づくりの先頭に立ち、経営を指揮する幹部クラスはどのような視点を持っているのか。座談会後、B-EN-G上海の幹部2人からも話を聞き、中国市場との向き合い方B-EN-G上海の組織の特徴についてもたずねた。
【話者紹介】
孫強 総経理
中国の建設設備メーカーを退職し、東京農工大学で工学を学んだ後、2001年にビジネスエンジニアリングに入社。2006年に上海駐在で赴任、2015年から現職。現在、約30人の社員を率いる。
児玉淳也 副総経理
2006年にビジネスエンジニアリングに入社。2019年、営業出身者として初めてB-EN-G上海の副総経理に就任。中小企業診断士としての資格も持つ。
――中国企業と日系企業を比較すると、組織運営にどのような違いがあるように感じていますか。
児玉淳也副総経理(以下、児玉副総経理):組織の意思決定では、中国企業の方が優る印象です。トップダウンとトライ・アンド・エラーのスピード重視で仕事が進んでいく傾向が強い。それが必ずしも良いとは思いませんが、中国国内では予想しない出来事がいろいろと起こるので、組織の瞬発力は大事な一要素だと思います。
――そうした中、どのような組織運営を心掛けてこられたのでしょうか。
孫強総経理(以下、孫総経理):組織の安定性というものを意識してきました。安定してサービスを提供するには、我々自身の組織運営が安定していなければなりません。ビジョンや目標を共有し、チームワークを重視すると共に、個人のパフォーマンスを向上させるため、公平性を持たせた報酬制度の充実にも力を入れてきました。
組織マネジメントでは、「内巻(ネイチュアン)」が起こらないようにしてきました。内巻とは、不条理な内部競争を指す言葉です。モチベーションが高いことは悪くないのですが、過剰な競争で優位性を追う風潮ではチームのパフォーマンスは出にくい。合理的でない高すぎる目標設定をしてしまい、潰れてしまう人材も出ます。パフォーマンスと働きやすさの両方のバランスに気を付けながらマネジメントするようにしています。
中国ビジネスの「成功」支え続ける
――B-EN-G上海の組織の特徴についても教えてください。
児玉副総経理:B-EN-G上海は組織が現地化されており、日本人は私一人です。長年働いているベテランのローカルスタッフが複数いて、さまざまな悩みを抱えるお客さまのサポートにあたっています。お客さまと同じ目線で課題を見つめ、ともに解決策を見出していく。そうした姿勢で業務にあたっているスタッフが多くいることが強みと考えています。
――今後のビジョンについてもお聞かせください。
孫総経理:会社が安定して事業継続していけることを第一にしつつ、将来に向けた新たな挑戦にも取り組んでいます。DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する製品や、現実空間の情報を集めて仮想的な空間でその情報を再現する「デジタルツイン」と呼ばれる技術など、中国発の製品を送り出すためのプロジェクトも動いています。
そして、児玉さんも話した通り、我々の強みは人材にあります。ITの専門スタッフが中国語、日本語、英語の多言語でお客さまをサポートし、課題解決に役立つデジタル化のシステムやモデルを提案してまいります。中国ビジネスの成功を支えるパートナーとして選ばれ続けるために、歩みを止めずにB-EN-G上海は挑戦し続けていきます。
※本インタビューは2023年8月現在の内容です。