海外ビジネスの本質は「人づくり」にあり B-EN-Gタイ、自立共創を目指す

渡邉祐一

デジタル新時代に向けたタイの成長に合わせ、ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)のタイ現地法人Toyo Business Engineering (Thailand) Co., Ltd.(B-EN-Gタイ)は、新たなビジネス創造に向けて歩み出した。それには、現地の課題やニーズをすくい取ることができるタイ人社員を組織の中心に据えた「自立共創」が欠かせない。

「タイムマシンビジネス」からの転換

渡邉祐一

B-EN-GタイのDeputy Managing Director(現法副社長)、渡邉祐一は「タイの日系企業は『タイムマシンビジネス』で成り立っていたが、これからはタイの新しい経済発展とともに成長できる企業でないと振り落とされていく」と指摘する。

タイムマシンビジネスとは、日系企業が培ってきた高い技術力や豊富な経験などを武器に、自国より発展段階の遅れた国・地域に対し、ビジネスを展開すること。ただ近年、タイのローカル企業も新しい技術を吸収しグローバルで活躍する企業が増え、優秀な人材を惹きつけている。そのため、従来の「タイムマシン」型ビジネスの難しさが顕著となってきた。

変化はそれだけではない。ビッグデータなどの技術情報が国境や企業間を軽々と跨ぎ、自由にやりとりされるデジタル時代の到来も、日本企業が囲い込んでいた技術や知見の優位性も崩れる要因となりつつある。

こうした時代の変遷に危機感とチャンスを感じ取ったタイ政府は数年前、人とモノづくりの付加価値の高い成長を目指す「タイランド4.0」を掲げた。経済社会のデジタル化を加速させることで、タイを付加価値創造社会へと移行させ、向こう20年間に先進国入りすることを目指す野心的な戦略だ。

日本企業も、タイの新しい経済発展の動きに合わせて、現地中心の組織や体制でビジネスを回せるよう転換する必要がある。さらに、タイの発展をサポートする企業になれるかどうかが問われている。だからこそ、B-EN-Gタイにとって重要なのは「自立共創」と渡邉は言う。

IoTでタイ政府機関などと提携

渡邉祐一

B-EN-Gタイは、生産・原価管理やグローバル経営管理ソリューション「mcframe」などのタイへの展開に加えて、近年はIoT(モノのインターネット)ソリューションの導入拡大を本格化している。渡邉は「ITの活用が、人と人をつなぐ企業内の情報連携から、製造現場の機械や、作業員の声なき声を拾い上げ活用するIoTの領域へと拡張してきている」と説明する。

2018年5月には、「タイランド4.0」を推進するタイ工業省産業振興局(DIP)と協力覚書(MOU)を締結。DIPが推進する、中堅・中小企業(SME)のデジタル化や自動化を進める”3段ロケットプロジェクト”の支援を開始した。(関連プレスリリースはこちら

3段ロケットプロジェクトの第1段階は、各種センターを使って機械設備の見える化を図る。第2段階は、B-EN-Gが開発したIoTソリューション「mcframe MOTION」を活用して、作業現場の作業員の動作をセンサーで3次元データ化。動作の3次元データ化を活用することで、人の動きのムダ・ムラ・ムリを見つけ出し生産性を向上、さらに自動化への道筋をつける。第3段階では自動化を実現する高度な人材を育成する計画だ。

プロジェクトの支援活動においてB-EN-Gタイは、タイ工業省の管轄機関の一つのThai-Germany Institute(TGI)や4つの大学と連携した活動を実施。渡邉は「TGIや4大学との取り組みの中で、タイ企業と共同でタイ発のソリューションを開発し、展開できるようにしたい。その先に、タイの成功事例をベースに東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国にソリューションを輸出できるようになれば」と展望を語る。タイでさまざまなローカル企業や団体と「共創」することで、日本本社からも「自立」してビジネス展開できる体制づくりを目指している(TGIの取り組み記事についてはこちら)。

現地社員のチャレンジ

現地社員のチャレンジ

渡邉はいつも現地社員たちに「これからは、よりデータドリブン(Data Driven)の世界になる」と話しているという。データドリブンとは、IoTなどで得られたデータをもとに次のアクションを起こしていくことがビジネスの主流になっていくだけでなく、社会活動の支えとなっていくという考え方だ。

B-EN-Gタイが展開しているERP(基幹情報システム)とIoTのデータはその単位や種類(メッシュ)が全く異なる次元のもの。だが、「これらメッシュの異なるデータをどう結び付けていけばいいのか?これにチャレンジして欲しい」と現地社員たちに期待の言葉をかける。

IoTで得られたデータをERPにつなげていくことで、製造業向けに新しいソリューションを生み出せるかもしれない。このような難しい挑戦があってこそ、社員たちは自ら考えるようになり、B-EN-Gタイの「自立共創」につながる道だと渡邉は考えているのだ。

人と出会い、学び合うことの大切さ

ユーザ会

B-EN-Gタイはここ1~2年、現地社員たち向けの教育費用を増やし、外部の各種講習会・研修会などに多く出席してもらうようにしている。渡邉は「社内だけの講習会だと限られた世界で、どうしても視野が狭くなってしまう。外に出ていろんな業界の人と付き合うことで、発想が広がっていく」と強調する。

年3回、mcframeの顧客企業が集まる「ユーザ会」も学び合う場のひとつだ。毎回、10社近くの企業の日本人、タイ人が集まり、それぞれセッションで情報交換を活発に行う。日本人セッションは2012年11月から、タイ人セッションは2016年10月からそれぞれ開かれているという。

タイの日系企業は工業団地ごとの交流はあるが、業種もエリアも工業団地も跨いだコミュニケーションの場は少ないため、話題は輸出入の業務処理からタイの人事制度などさまざまで、ユーザ会メンバーの工場見学なども行う。「あくまで顧客主体の会で、B-EN-Gタイは事務局を務めているだけだが、このつながりが私たちの大きな財産となっている」と渡邉は話す。

タイ人で完結する組織へ

渡邉祐一

ただ、「IoTやAIはあくまでツール。最終的にはそれを使いこなす人が重要。そのため、人づくりが目標」と、インタビューの最後に渡邉は強調する。お客様の課題を解決するプロセスを通し、タイ人が業務の流れや課題を正しく理解することで、経験と知見が広がり、自ら考えられるようになっていく。そうすることで、「タイ人社員自身でお客様に何を提供できるかを考え、タイ人で完結できる組織となって欲しい。日本人はそれを側面からサポートするぐらいがちょうど良い」とまで言う。

渡邉がB-EN-Gタイでのタイ人社員の育成にこだわるのは、9年近くのタイ駐在で、さまざまな人との出会いや経験を通じて成長させてもらったとの思いがあるから。「今度はタイに貢献し、恩返ししたい」と、その思いを打ち明ける。

現在の顧客企業は日系企業が9割を占めるが、向こう5年以内をめどにローカル企業の割合が半数になるよう増やしていく計画。「タイでは日本のように決まった枠組みやしがらみがなく、新しいことにチャレンジしやすい環境。 今後も、色々な人との一期一会を大切に、出会った方々と一緒に新しいことにチャレンジしていきたい」と渡邉は力強く語った。
(取材協力:NNA)

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B-EN-Gタイ

ASEANでは最初の拠点としてバンコク市内に2003年設立された。タイに進出している日系企業を中心に、生産管理、原価管理、会計管理、IoTソリューション等の導入支援やコンサルティングを提供し、デジタル化支援を行っている。長年培われた現地パートナー経由での導入や現地企業への導入も増えている。B-EN-Gタイには約40人の現地社員が在籍。タイ語が堪能な日本人社員も数名いる。

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