タイの製造業にIoTを TGIとB-EN-G、「インダストリー4.0」時代を先取る

産業高度化政策「タイランド4.0」を掲げるタイ。タイ工業省の管轄機関の一つである、Thai-German Institute(TGI)は、ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)のIoT(モノのインターネット)ソリューション「mcframe MOTION」を活用し、タイ国内の中堅製造業向けに技術者の研修プロジェクトに取り組み始めた。TGIのプレジデントである、ソムワン・ブンラックチャルーン(Somwang Boonrakcharoen にその狙いと、変化が迫られるタイ産業の行方を聞いた。
ソムワン氏の熱い想い

TGIはタイとドイツ政府の支援を受けて1995年に創設された、23年の歴史を持つタイ工業省の外郭機関だ。タイの製造業を成長させるために製造技術に関わる企業支援や技術者への研修などを行ってきた。研修を受ける技術者などは年間7,000人にも達するという。
創設時からTGIにかかわり、タイの製造現場をくまなく見てきソムワン氏。TGI設立前まではキング・モンクット工科大学北バンコク校(King Mongkut University of Technology, North Bangkok)で十数年間、生産技術を研究した経験を持つ。日本やドイツで「ものづくり」の真髄を目の当たりにし、「どう自国の製造業に取り入れたらいいのか」を長年考え続け、熱心に人材教育などに尽力してきた人物でもある。
ソムワン氏は「実際のタイの製造現場はまだ『インダストリー2.5』程度と分析する。生産の自動化を進めれば『3.0』になり、さらにIoTやビッグデータの活用ができれば、タイ政府が目指す『4.0』に届くだろうとソムワン氏は笑顔で断言する。
この4.0時代への足がかりとして期待をかけているのが、B-EN-GのIoTソリューション「mcframe MOTION」だ。
「タイランド4.0」と中堅・中小企業(SME)

勤勉で器用な労働力を生かし、自動車や電機・電子産業などを集積してきたタイだが、「近年になって熟練技術者の高齢化や工場ワーカー不足が深刻化しつつあるのが現状」とソムワン氏は指摘する。中国のほかベトナム、フィリピンなど周辺国の産業競争力も高まり、強力なライバルとなってきている。
そこで、労働集約型産業からの脱却を目指しタイ政府は2015年、高度化政策「タイランド4.0」を打ち出した。2036年までに産業に付加価値を付け、高所得国入りする大きな目標を掲げた。
2018年5月にはタイ工業省産業振興局(DIP)がB-EN-Gなどと協力覚書を締結(詳細はこちら)し、全企業数の95%を占めるとされる中堅・中小企業のデジタル化や自動化を進める実証プロジェクトを3段階に分けて開始した。
第1段階は、様々なセンサーを使って生産ラインを監視するiSTC(i Smart Technologies)社のIoTソリューションなどを用いて、生産ラインの見える化を図る。第2段階は、B-EN-Gが開発した、作業現場の作業員の動作や姿勢をセンサーで3次元データ化するIoTソリューション「mcframe MOTION」を活用。動作を3次元データ化することで作業効率が上がる機器のレイアウトの検討などができる。第3段階として高度な人材を育成していく考えで、DIPは中堅中小企業の産業高度化に日系企業の見える化技術を積極的に取り入れる方針だ。
「作業の3次元データ」で見えること

「mcframe MOTION」は、3D映画の作製に使われることで知られるモーションセンサーによって、製造現場にいるワーカーの作業動作を「見える化」できる優れたツールだ。3次元データを分析・評価することで、「正しい動作との違い」や「非効率な動作」を検知できる。
TGIは18年にこの「mcframe MOTION」のサブスクリプションライセンスを購入して国内企業向けの研修を開始したほか、実証実験として国内の中堅中小企業など10工場でmcframe MOTIONの導入を進めた。1工場当たり機械3台にセンサーを無償で取り付ける。
ソムワン氏は「どう走れば速くなるのか?どうスイングすればホームランが打てるのか?私もモーションセンサーはこういったスポーツ科学で使うものと思ってきた」と話しながらも、「mcframe MOTION」の導入によって生産現場で発見できた課題はさまざまだと素直に驚く。ワーカー一人でできる作業を2~3人でやっていたほか、一カ所の作業場にワーカー4人が集中し、1人のワーカーの作業を終えるのを待ち、ワーカーの時間を浪費していることなどの無駄も分かってきた」。その結果、4人でやっていたラインでの作業を2人に減らすなどの改善にもつながっているという。
日本などパートナーと開く未来

TGIは今年新たに20工場で「mcframe MOTION」を導入した実験プロジェクトを行う計画だ。自動車関連工場のみならず、電機・電子、食品、包装などの各工場などでも使えるという。「データが得られれば修正、改善していける。作業の効率化だけでなく、ゆくゆくは工場全体のマネジメントの向上にもつながっていくだろう」とソムワン氏。これら生産ラインのIoT化やワーカーの動作の見える化によって、タイの生産性は最低でも9~10%向上するとDIPが予測しているという。
「深刻な技術者不足に後押しされて、タイでもインダストリー4.0社会は向こう2~3年以内に実現していくだろう」とソムワン氏。こうした時流を先取り、TGIはB-EN-Gと協力して工業関連の展示会などに積極的に出展するなどし、「mcframe MOTION」のタイでの認知度を引き上げていく。関心のある企業が実際の導入現場を見学することも可能だ。
ただ、地道な技術力の引き上げで生産性を少しずつ引き上げてきたタイの中堅・中小企業は「コストには敏感」だ。さらに技術が成熟してIoTのサービス価格が下がれば、中堅・中小企業にも手が届きやすくなると期待感を示す。 「インダストリー4.0は、IoTとビッグデータがその中核を担っていく。我々は今後も、これらの先端技術を持つ日本やドイツなどの力強いパートナーが必要。ともに発展していきましょう」と笑顔で話した。
(取材協力:NNA)
※本インタビューは2019年1月現在の内容です。