海外システム導入プロジェクト推進の落とし穴・運営のポイント【ストップ!OKY・OKIシリーズ第2弾】

海外システム導入プロジェクト推進の落とし穴・運営のポイント【ストップ!OKY・OKIシリーズ第2弾】

第1弾では、OKY(お前、ここに来てやってみろ!)・OKI(お前の代わりはいくらでもいる!)をキーワードに、海外拠点(現地)と日本本社双方の事情の解説ならびに、システム構築(導入)が始まるまでの困難とそれをどう乗り越えるかの提案をメインに述べた。第2弾では、システム導入プロジェクトが決定したことを想定して、その後のプロジェクト運営における落とし穴とその回避ポイントを解説する。現地で経営・運営を行っている日本人駐在員と、本社で海外拠点を管理・サポートする立場の方をイメージしながら筆を進めてみた。OKY・OKI脱却のヒントになれば幸いである。

第1弾<ストップ!OKY・OKI 本社と現地で揉めないシステム構築のコツ>はこちら

1.システム導入プロジェクト、あるある!「負のループ」

ERPだけでなくほぼすべての業務システムにおいて、スクラッチでゼロから作ることは非常に稀になった。近年では「Fit to Standard」でシステムを導入する、つまり要件定義で要件・ギャップを洗い出すという方法ではなく業務をパッケージシステムに合わせる導入方法が増えてきた。そうなると、標準機能で実業務がまわるか、運用できるかを討議することになる。

現業のキーパーソンがプロジェクトに参画し、すばやく標準機能を業務に適用できる・できないの可否を決定するのがより一層肝になっているのだが、これが海外拠点においては非常に難しい。

業務をシステムに合わせるということは、少なからず「仕事のやり方を変える」ことが発生するが、日本人も現地担当者も人材の入れ替わりが激しい海外拠点においては、現行業務をシステムに合わせて変更しても大丈夫かどうか決められないことが多い。
第1弾でも述べたとおり、現地日本人駐在員は定期的に交代しているため、タイミングによっては現地業務に精通していなかったり、そもそもシステムに苦手意識があったりする。かたや、現地担当者は、本当に現行業務を変更してもよいかわからないというケースもあるが、実は責任を取るのを嫌がっているだけというケースもある。

特に、日本以外の国ではいわゆる「ジョブ型雇用」が一般的なため、ジョブディスクリプションに書かれていない業務を行う義務は無く、自分の目指すキャリアに直結しないことはやりたがらない、スペシャリスト志向が一般的である。
また、現地日本人駐在員も元々営業なり技術なり、特定業務のスペシャリストであったケースが多く、ゼネラリスト的に他部門を束ねてきたという経験を持つ人は限りなく少ない。そんな現地日本人駐在員と現地担当者が協力しながらシステム導入に関する決断をしなければいけない難しさを、日本本社メンバーにはぜひ理解して欲しい。

注意したいのは、現地日本人駐在員がやりがちな「現地担当者に任せているので彼らに聞いてくれ」だ。現地担当者がシステムに合わせた現行業務変更の可否を決めてくれることもあるが、慣れたやり方を変えて新たに覚え直さないといけない(わりに給料は変わらない)となると、彼らにとっての業務変更のメリットは全く無いため否定的になりがちだ。

業務が変更されない場合、システムに手を加える(アドオンする)ことになり、「Fit to Standard」が成立しないため、日本本社メンバーや現地日本人管理者駐在員は、現地担当者の意見を無視し、トップダウンで標準機能の適用を決定する。
そうなると現地担当者はモチベーションが下がり、会議に参加しなくなったり、依頼事項を断ったりするなど、プロジェクトに非協力的になるし、日本と現地、双方の日本人はフォローのために空回りし続けるか、徐々にプロジェクトに関与したくなくなる。関係者全員がネガティブになるという「負のループ」が続き、無関心と言う名の終着駅に辿り着いたとき、プロジェクトが頓挫し、結局はその拠点への導入はあきらめざるを得なくなる。

現地担当者(現行業務)を無視したトップダウンの決定

現地担当者のモチベーション低下(プロジェクトに非協力的になる)

日本人によるフォロー(空回り)

現地担当者も日本人もプロジェクト作業にネガティブになる(やる気低下)

関係者全員の関心すら薄れる(やらなくてもいいじゃないかという意識)

プロジェクト消滅

img1現地担当者の意識が「やらなくてもいい」になったら依頼を断られることも

2.絶妙な日本人の関与

この「負のループ」に陥らないためにも、必要なのが日本人の関与だ。
第1弾でも触れたが、問題の発端は現地日本人駐在員の一言である。言い方は悪いが「丸投げ」とも取られかねない。同様のパターンで「忙しくて時間が取れないから現地担当者に任せる」も多く見かける。

ここでのキーパーソンは本社から出向している現地日本人駐在員になる。駐在員がITに精通していることは求めない(求められない)が、システム導入が決まったのであれば、自分の仕事の一部として責任と関心を持たなければならない。

キーパーソンとしての一番の役割は「横の連携」を作り、「事例収集・情報共有」をすることだ。ここで言う「横」とは
①(同企業グループ内の)他海外拠点
②(現地国の)国内同業者
③(現地国の)国内同システムユーザ
をイメージしていただきたい。

①は同じ目的・課題を持つ同志であるため言わずもがな、②も同じ業界・業種ならではの課題について、対応事例を聞くことができる。また、③も導入プロジェクトの先輩として非常に頼りになる存在である。
ちなみに、mcframeには海外ユーザ会(MCUG)が中国・タイ・インドネシアにあり、毎回さまざまな話題で議論を重ねている。特に海外拠点では、労務・税務などシステム以外の悩み・課題が多いため、mcframeに関する話題だけでなく、業種・業界の枠にとらわれずに「今、正に困っていること」を相談できる場となっている。ご興味があれば下記をご覧いただきたい。


また、①に関して、大企業の場合に多く見受けられるが、現地日本人駐在員は、日本本社時代に海外拠点と関わりが無く、他海外拠点の現地日本人とも面識が無いために連絡が取りづらいということがある。そういうときこそ日本本社にいる海外拠点管理担当者の出番だ。ハブになって両者を引き合わせたり、Web会議のファシリテーターとして悩み・課題を解決へと導いてほしい。
あわよくば海外拠点向け導入ノウハウとして本社内にも蓄積していって欲しい。日本本社のプレゼンスを高めることにもつながる。実際、本社情報システム部門が率先して既に導入済みである中国・タイ拠点の課題と解決策を都度収集し、インドネシア拠点のシステム導入を成功させたという事例を、私自身インドネシア駐在時代にいくつも経験した。

一度「横の連携」が構築できた後は、現地日本人駐在員から「同様の課題があったか?」「どう対応したか?」など聞けばよいのだが、聞いて終わりにするのではなく、お礼の意味を込めてQ&A内容を振り返り、メールにテキスト打ちでも構わないので共有して欲しい。自分の理解を確認するためにも有用な上に、相手側のノウハウが活きた証拠(お土産)にもなる。

最後に、本章のタイトルにある「絶妙な」という意味を解説したい。
「横の連携」から得た他社事例・情報の使い方だ。現地日本人駐在員は、ここで得た他社事例・情報を自社課題解決の結論とするのではなく、あくまで「ヒント」として現地メンバーに与えるだけに留めてほしい。結論は現地メンバーで納得した上で出すのである。
自分たちで納得して出した結論だからこそ、次フェーズで責任を持って実行に移すことができるのである。もちろん時間制約や組織・業務の都合上、日本人側で決めたほうがよい・決めなければいけないこともあるが、導入プロジェクトだけでなく海外拠点の運営・成長を考えた場合、現地メンバーが「指示待ち」から脱却する良い機会になり、結果的に本社・現地日本人を助けることになる。

 

img2現地メンバー自身に結論を任せることが成長のきっかけになる

3.リアルタイム管理の幻想

ERPと聞いて思い浮かぶキーワードはなんだろうか?
ベストプラクティス、業務標準化、一元管理、リアルタイム、などいくつか挙げられるが、ここでは「リアルタイム」に着目する。実際に海外拠点でERPシステムのデータを見て、リアルタイムに意思決定をしているだろうか?YESな方がいらっしゃったら大変申し訳ないが、私の経験上では100% NOである。

NOの原因はいくつかあるが、多くが挙げる理由は「データ精度」である。リアルタイムデータでも精度が低ければ全く意味がない。逆に、間違った意思決定をするリスクが高くなるだけである。生産管理システムでは、最も顕著にその例が出やすいのがMRP(Material Requirements Planning:資材所要計画)だ。MRPはBOM等のマスタや在庫・受注残・発注残データ(トランザクション)の精度が95%以上でないと結果はボロボロになると言われている。その結果、使えないという判定が下る。しかしこれは、MRPの機能が悪いのではない、データの精度が悪いのだ。

また、間違ったデータは、探して、修正して、確認するという余計な時間がかかる。第1弾で解説したとおり、「Small Start, Long Growth」のSTEP1(在庫・受払実績見える化)の実現も正確なデータ入力が前提になっている。そのためにも、「リアルタイム性」より「正確性」を重視すべきである。極端な例えだが、50点精度の当日データ入力より、1日遅れでも構わないから100点のデータ入力を目指そう。
OKY・OKIの原因でもある「本社向けレポート提出が遅い」も、原因をたどっていくと、レポートの元になるデータの精度に問題があるかもしれない。リアルタイムでなくても、着実・確実・正確なデータ入力が現地担当者も現地日本人も日本本社も喜ぶという、「近江商人の三方良し」が実現できるのである。

img3正確なデータ入力が現地担当者、現地日本人、日本本社の満足につながる

 

他にもある落とし穴「言語」「ツール」「完了後の活かし方」

ここまでは主にプロジェクト開始時期に問題になりうる、登場人物や組織に注目して、プロジェクト推進・運営上の問題点と解決のヒントを提示した。海外特有の事情もあるが、ジョブ型雇用、ワークライフバランス、副業推奨など、国際標準化・多様な生き方が進む日本でも同じようなことが起こるかもしれないと思って読んでいただければ幸いである。
後編では、プロジェクト期間中、常につきまとう「言語」や「ツール」、そしてプロジェクト完了後の「プロジェクトの活かし方」について述べたい。

第3弾「海外プロジェクト成功に欠かせないこと」へ続く

内田 雅也

内田 雅也(うちだ まさや)
2002年、B-EN-G入社、mcframe事業本部(現プロダクト事業本部)配属。mcframeプリセールス・導入コンサルティング・商品開発を担当。タイ、中国、インドネシア、シンガポールでのmcframe導入を多数経験している。mcframeの海外ビジネス担当としてインドネシアに5年、そして現在タイに駐在して3年になる。趣味はランニング、トレイルラン、トライアスロン、読書。
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第2弾では、OKY(お前、ここに来てやってみろ!)・OKI(お前の代わりはいくらでもいる!)に悩みながらもシステム構築(導入)プロジェクトが始まったことを想定し、海外プロジェクトに関わる人・組織上の問題とその解決のヒントを解説した。第3弾では、プロジェクト期間中、常につきまとう「言語」や「ツール」の問題とその解決策を述べつつ、最後に新システム本稼働後、OKY・OKIを乗り越えてプロジェクトをハッピーエンドに運ぶための「OKD(お前とここで大成功!)」を提言したい。

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今回はB-EN-Gインドネシアが、ビジネスエンジニアリングが提供しているクラウド型国際会計&ERPサービスの「GLASIAOUS」の導入に至った背景から導入、本稼働に至るまで、B-EN-Gインドネシア、そして記帳代行を委託している現地の日系会計事務所であるPT Asahi Networks Indonesia(以下、朝日ネットワークス)、B-EN-G本社経理部のメンバーに赤裸々に実態を語ってもらった。

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