駐在員が占う 日系製造業のアフターコロナ

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新型コロナウイルスの感染拡大で突然訪れた経済危機。世界に進出する日系企業はどのような対策を取るべきだろうか。B-EN-Gが世界5か国(タイ、中国、シンガポール、インドネシア、米国)で展開する現地法人の駐在員に、各国の現状やコロナ収束後の見通しについて聞いた。(聞き手は共同通信デジタル 須藤祐介)

サプライチェーン再構築のカギは

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B-EN-Gアメリカ 社長 館岡浩志

2波の恐れ 予断許さず

米国では州によって異なりますが、感染者が比較的少ない南部・中西部を中心に経済活動を再開する州が増えてきています。テネシー州にある顧客企業の工場も再開しました。今はまだ4割程度の稼働率ですが、6月頃から通常の状態へ戻りそうです。ただ、感染「第2波」のリスクもあり、まだまだ予断を許さない状況といえます。

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トイレットペーパーが棚から消えたスーパーマーケット。米国でも日本と同様に買い占めが起きた(シカゴ近郊)

コロナの収束後に製造業が取り組まなければならない喫緊の課題は、寸断された世界中のサプライチェーンをどうやって再構築するかでしょう。

今まで日系の製造業は、材料・部品調達をグローバルに行っていたため、コロナ禍により、部品がたった一つ届かないだけで製品が完成しない事態に陥ってしまいました。今後はいかにしてサプライチェーンを短期間で柔軟に変更や調整できるかを模索し、製品を確実につくるための体制を構築することが求められます。

そのために、中国などに多い生産能力重視の製造拠点だけでなく、事業継続能力の高いリスク回避型の拠点を共生させていかなければなりません。この点から米国の製造拠点は米国市場向けとして重要性が増してくると思われますが、製造原価や人件費は高くなりますので、原価や生産状況を今まで以上に的確に把握する必要があります。会計からロジスティクスまでを一元的に管理できるERP(基幹業務パッケージ)のニーズがより高まっています。

工場のデジタル化が加速へ

また、誰が感染するかも分かりません。工場の生産ラインを管理するマネージャーが感染する可能性もあり得ます。工場の状況をデジタルでリアルタイムに可視化し、リモートでオペレーションできるシステムが求められます。IoTを生かした工場のデジタル化が加速すると考えられます。

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マスク着用を求めるオフィスビルの張り紙。米国では予防効果なしとされていたマスクの評価がコロナ禍で急上昇した(シカゴ近郊)

コロナ禍とは直接関係ありませんが、工場のデジタル化にはもう一つ大きなメリットがあります。現場での「勘」や「経験」は企業にとって大きな資産ですが、時にそれが属人化しすぎ、逆に生産性を下げてしまう恐れがあります。IoTで工場内のあらゆるデータを収集・分析し、ビジネスに役立てることができるようになれば、属人化の防止にもつながります。

従来は日本の本社が各国の拠点の状況を知ろうとしても、各拠点で動きが独立してしまっており、情報がレポートとして上がってくるまで動けないといった事態が起きることもありました。デジタル化で各拠点がつながれば、今回のコロナ禍のような世界規模の非常事態に、日本の本社を統括拠点として各拠点の状況をリアルタイムに把握し、サプライチェーンの組み換えなどの指示を迅速に出すことができます。

ERPクラウド化のメリット

そのためにも推奨したいのがERPのクラウド化です。今までの日系企業では、自社内に設置したサーバーにVPN接続することが一般的でしたが、コロナ禍で社員のリモートワークが想定以上に増え、システムがダウンする可能性が露呈しました。クラウドだとその心配が少ないうえに、自社のサーバー管理者が感染した場合のリスクを避けることもできます。

IoT 成功は運用次第

期待が高まるIoTですが、収集したデータを上手く活用できている製造業はまだ少ないのが現状です。工場内にデータに基づく議論や、積極的な「カイゼン文化」がなければ、せっかくのIoTも成功しません。

B-EN-Gアメリカでは、データを収集するだけでなく、分析・グラフ化して比較できるところまでをパッケージで提供しています。パッケージを導入すれば、ビジネスの知識がある程度ある人なら判断できます。B-EN-Gアメリカが「アフターコロナ」のデータ・デジタル化時代を勝ち抜くための手助けをできればと思います。

館岡 浩志(たておか・こうじ)
ミシガン州立大学卒。前職では中国の拠点の立ち上げなどを担当。B-EN-G入社後はグローパルERP「mcframe GA」の初代プロダクトマネージャーとして製品をリリース。プロジェクトマネージャーとしても3 年間で12 社のグローバルプロジェクトを実施した。製造業向けloTソリューション企画を経て、2018年より北米地域のお客様をITの力で支援すべく、米国拠点の設立とともにシカゴに駐在中。

 

タイの次世代担う若手とつながるチャンス

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B-EN-Gタイ 副社長 渡邉祐一

感染対策 日本より徹底

タイでは326日から全土に非常事態宣言が出され、食料品店や薬局を除くすべての店舗が閉鎖されました。感染対策は日本よりもはるかに徹底されており、コンビニに入店するにもマスクなしでは拒否されてしまうほどです。

5月3日に制限措置が一部緩和され、飲食店や市場、公園などが開き始めました。私には3歳と5歳の子供がいるのですが、少しは気晴らしができるようになってきました。

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閑散とする政府総合庁舎(バンコク北部チェーンワタナ)。エントランスに特設の順番待ちの椅子が並べられている。普段はVisa申請など各種手続きを行う外国人で混雑する(Photo by Yoko Sakamoto)

非常事態宣言措置の間、様変わりしたと感じるのは、「バンコク名物」とも言える渋滞がすっかりなくなったことです。以前は徒歩15分で到着できる会社まで、車で45分もかかっていましたが、5分あれば十分です。

進むオンライン教育

子供たちが通う幼稚園や習い事はオンラインに移行しました。最初の頃は使用するアプリがつながらないなど「手作り感」が満載でしたが、事前に教材を送ってくるようになるなど、運営が徐々にスマートになってきました。タイ人の適応力の高さにはいつも驚きます。

政治的な動きでは、プラユット首相が休業要請などと引き換えに行われる補償の財源として、タイの富豪に多額の寄付を募ったことが賛否両論を巻き起こしました。結果、政府が多額の寄付を受け取ったため、今後は国と財閥のパワーバランスに変化が起きるかもしれません。そうなった場合、日系企業の立場が少し心配ですね。

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バンコクの大型商業施設「エムクォーティエ」の入り口。客はサーモカメラで検温、手を消毒してから入店する(Photo by Yoko Sakamoto )

タイは自動車産業が屋台骨なので、トヨタや日産、ホンダ、マツダなどの工場が操業を休止した影響は大きかったですね。日系の自動車部品メーカーも稼働率を落とすなどの打撃を受けました。B-EN-Gタイでも、提案したプロジェクトが延期や中止となるなどの影響が出ています。

未来のビジネスへ「種まき」

ただ、良い方向にとらえれば、コロナ収束後に向けた準備をする時間が生まれたとも言えます。実際、すぐにプロジェクト化できるかどうかは別として、次への「種まき」になるような様々な相談が顧客からB-EN-Gタイに寄せられる機会が増えています。近い将来、ビジネスが動き始めた時に「開花」させられるよう進めていきたいと考えています。

タイ経済は当面、低空飛行になる可能性があります。小さくなった市場を同じ企業数で奪い合えば、当然、中途半端な経営をしている企業はふるい落とされます。B-EN-Gタイでも、当社単独で打てる手は限られるので、思いを同じにしている外部企業との連携を強化し、付加価値を出していきたいと考えています。

高度人材の養成へ職業訓練

また、タイではコロナ不況で新卒の学生が就職先に困っていると聞きます。このままでは経験を積めず、社会から取り残される人たちが出てきてしまいかねません。製造業の高度人材を養成するためのアカデミー「SIMTec」やタイ工業連盟(FTI)がそういった人たちを対象に職業訓練の準備を始めています。

B-EN-Gタイでも職を得られない若者たちにERPやIoTなどの商材を通じて工場マネジメントについて学んでもらうなど、就職につながる支援を考えています。私たちの経験をタイの若者に伝えることが、日本人の若者とタイの若者が将来つながるためのきっかけ作りにもなってほしいと願っています。

タイの中堅企業を回っていると、年配のオーナーほど日本人好きが多いと思うことがあります。「昔、日本人と一緒に仕事をした」「日本の機械は壊れない」などと日本愛を語ってくれます。日本が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称賛されていた時代の名残なのでしょうね。

しかし、50歳以下の世代との関係性は残念ながら薄くなってしまっています。コロナ禍でお互いが苦しんでいる今こそ、タイの次世代を担う若い人たちとの距離を縮め、関係を築き直すチャンスだと信じています。

渡邉 祐一(わたなべ・ゆういち)
2000年、B-EN-Gに入社。主に製造業向けのERP関連業務に従事。2011年よりタイ拠点に赴任しmcframeビジネスの組織を立ち上げた。2016年よりIoT製品の取り扱いも開始。プロジェクトマネージャーとしてタイ国内で複数のシステム構築を経験した。2018年より現職。

日常戻ってきた/治安が悪化/コロナ後まだ遠い

未曽有のコロナ禍は他の現地法人にも大きな影響を与えた。B-EN-G本社に上がってきたレポートの一部を紹介する。

中国

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B-EN-G上海・児玉淳也

新型コロナウイルスの世界的な流行の震源地となった中国。B-EN-G上海が所在する上海市では新規感染者が減少し、学校や飲食店、工場が再開されるなど日常を取り戻しつつあるようだ。3月頃からオフィス勤務体制に戻った会社が9割を超えるという。ただ、体温検査やマスク着用は一般化しており、警戒はいまだ続く。

インドネシア

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B-EN-Gインドネシア・佐々木淳

インドネシアでは5月12日に東南アジアで初めて死者が1000人を上回った(同政府発表)。失業者が増えたうえ、感染拡大を防ぐため受刑者を早期釈放したこともあり、治安が悪化している。このため、駐在員の帰国を検討する日本企業もあり、今後、日本からの「リモート支援」で対応する企業が増える可能性があるという。

シンガポール

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B-EN-Gシンガポール・山下元士

シンガポールでは4月7日から職場の閉鎖、外出自粛などが続いているが、6月2日からの緩和が決まり、段階的に日常生活を取り戻していくことになった。「当地の日系企業はシンガポールとASEAN各国をテリトリーとしている企業が多いが、国を超えた人の往来への影響は尾を引きそう。ニューノーマルへの適応が求められる」という。

(取材内容は2020年5月14日時点)

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