会計システム「全社統一」への道のり DX推進に向けてグループ一体経営を目指した 三菱ガス化学の挑戦

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製品の90%以上を自社開発技術から生み出してきた「独創主義」により幅広い事業を展開し、世界でも存在感を示している三菱ガス化学。しかし、大企業であるがゆえの課題として顕在化していたのが、グループ一体となった経営をいかに推進できるかどうかである。今回グループ統一会計システム導入対象となった約30社あるグループ各社は、バラバラの会計システムを使っており、グループを横断したデータ分析・活用はできなかった。この課題に情報システム部と財務経理部がタッグを組んで向き合い、推進してきた会計システム統一の軌跡をたどる。

グループとして経営の一体感強化が課題に

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三菱ガス化学株式会社
情報システム部長
瀬田 和正 氏

大正時代に設立され、日本初のホルマリン製造に成功した三菱江戸川化学。そして新潟県に独自の天然ガス田を開発し、そこから発掘した天然ガスを原料としたメタノール、アンモニアなどの化学品の製造を手掛けてきた日本瓦斯化学工業。この2つの企業が1971年に合併して誕生し、50年以上の歴史を重ねてきたのが三菱ガス化学だ。同社の強みは、製品の90%以上を自社開発技術から生み出してきた「独創主義」にある。これまで強みとしてきた化学品・素材製品はもちろん、近年では地熱発電などのエネルギー資源事業、抗体医薬をはじめとするライフサイエンス製品にも注力し、サステナビリティや人々の健康など社会に貢献している。

もっとも、そんな同社にも課題がなかったわけではない。多数のグループ会社を抱えることから、グループとして一体感のある経営をシステムやデータの支援から進めることが困難であった。同社のグループ会社は、国内の連結子会社および持分法会社だけでも30社以上を数え、しかも近年ではM&Aを中心とした再編の動きも活発化しており、グループの顔ぶれはどんどん入れ替わっていく。これらのグループ各社が、バラバラの会計システムを使って経営を行っていたのだ。それによって生じる課題を、同社情報システム部長の瀬田和正氏はこう振り返る。「例えば予算実績に差異が生じた場合、原因がどこにあったのかを知るために、都度各社に問い合わせる必要がありました。仮にシステムに不備があったとしても、本社からサポートすることは困難です。また各社の担当者が急に変わったりすると、それまであうんの呼吸で行われていたやりとりも通じなくなります。さらに規模の小さなグループ会社の中にはスタンドアロンのPCベースで会計システムを運用しているケースもあり、データ保護やセキュリティ対策、業務継続の観点でも問題を抱えていました」

“攻め”の基幹システムへの転換で会計システム統一に乗り出す

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三菱ガス化学株式会社
情報システム部 副主査
広瀬 輝之 氏

とはいえ三菱ガス化学が今後DXを推進していくためにも、グループ一体経営を支える会計システムの見直しは不可欠だ。「これまで当社のシステム導入は、業務の効率化に主眼を置き、費用対効果で投資を判断してきました。しかしDXを目指す中では、それだけでなくデータを収集・分析して付加価値を生み出せるかどうかという視点も欠かせません。一方、コロナ禍で従業員の働き方も急速に多様化しており、それに対応した新たなセキュリティ対策が必須となっています。そうした中で財務会計をはじめとする基幹システムについても、“守り”から“攻め”への転換が求められています」と瀬田氏は語る。
こうして2017年、同社はついにグループ全体の会計システム統一に向けた取り組みを開始した。そこでの共通プラットフォームに選定したのは、2004年から利用してきたビジネスエンジニアリングのグローバルERP/会計システム「A.S.I.A. Hi-Line(現:mcframe GA)」である。もっとも異論がまったく出なかったたわけではない。社内からは外資系ERP製品を推す声も上がった。しかし最終的には、やはりコストも大きな要因となる。その外資系ERP製品を全グループ会社に展開するには桁違いのコストがかかるが、A.S.I.A. Hi-Lineで対応できないことを実現できる特別な機能があるわけではない。むしろ多くのグループ会社にとって過剰投資となってしまう可能性のほうが大きい。
情報システム部副主査の広瀬輝之氏は、「グループライセンスで導入できるA.S.I.A. Hi-Lineであれば、事業内容や規模も異なる多様なグループ会社にあまねく導入することが可能です。身の丈にあった柔軟な使い方ができる会計システムこそが、私たちの望みに合致していました」と語る。

統一に向けて各社から協力を得られるかが課題に

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三菱ガス化学株式会社
財務経理部 経理グループ 主席
渡辺 秀介 氏


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三菱ガス化学株式会社
財務経理部 経理グループ 副主査
中込 成幸 氏

だが、システム統一に向けて肝心になるのは、ここからである。グループ各社はそれぞれニッチな製品を手がけており強い個性を持っている。また、三菱ガス化学の傘下に属しながらも自主独立の経営を続けてきた自負もある。本社主導のシステム統一に対してすぐに納得することは難しかったのだ。財務経理部 経理グループ 主席の渡辺秀介氏はこう語る。
 「確かにグループ各社にとってみれば、慣れ親しんだ業務のやり方を変えてまで別の会計システムに移行するメリットを見いだすのは難しいでしょう。段階的に移行するので、最初に導入する会社が「実験台にはなりたくない」と考えるのももっともなことです。また、コスト負担も切実な問題です。『親会社からシステム変更を指示する以上、今後のバージョンアップも含めて費用はすべて面倒を見てほしい』と要望する会社もありました。当然ながら税制面で問題があるため、こうした要求を受け入れることはできないのですが、彼らの気持ちも痛いほどわかるだけに、私たちも苦しい立場に置かれました」

さらに財務経理部自体も大きな課題を抱えていた。経理グループの中込成幸氏は、「当時はさまざまな業務システムの更新や新規導入が相次ぎ、私たちも“てんやわんや”の状況にありました。グループ各社に会計システム刷新のメリットを体系的に訴えていくための、準備を整える余裕がなかったのです」と明かす。
もちろん現在では、本社とグループ会社の間で妥協点を探りながら、両者が納得する形で会計システム統一は完了している。では、そこにいたるまでに、どのような工夫を施してきたのだろうか。

システムグループを情報システム部へ格上げ

三菱ガス化学がグループ全体の会計システム統合に弾みをつけることができた最大のポイントは、DXに向けた“本気度”を示したことにある。同社は中期経営計画の中でもDX関連の積極的な投資を示すなど対外的なメッセージを発信しているが、一方でグループ内に向けては具体的なメッセージを提示しきれていなかった。
 そこで同社はDX推進に向けた象徴的な施策の1つとして、2017年に情報システム担当の組織改編を実施。もともとは財務経理センター(当時)の配下にあったシステムグループを、現在の情報システム部に格上げして“独立”させたのである。
「従前のシステムグループは基幹系システムの運用管理を主な業務としており、そうした中で定着していた“システムのお守り役”というイメージを払拭したかったのです。『新しい経営方針に基づきビジネスの付加価値をどんどん生み出していく』『プラントの自動化を大胆に進めていく』などのDXのビジョンに対応していく体制にしました。そもそも会計システムの統一といった大規模なプロジェクトとなると、全社業務を担っているそれなりの“格”を持った組織が旗を振らなければ、グループ会社は従ってくれません。情報システム部が独立したことで、ようやくグループ全体でシステムを標準化する体制が整いました」(瀬田氏)

初年度で実績を作り着実にプロジェクトを進めた

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三菱ガス化学株式会社
情報システム部
神 浩介 氏


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三菱ガス化学株式会社
情報システム部 副主査
青山 徹郎 氏

情報システム部の独立によって各社に会計システムに対する本気度と納得感のあるメッセージを届けるとともに、同部門と財務経理部が両輪となって推進することで、会計システム全社統一が軌道に乗ったのである。ただし初年度の 2017年は導入対象のグループ会社を2社のみに限定し、現状の業務体制およびシステム構成などの事前調査を徹底して実施した。
 「この結果を踏まえて実際の導入作業は翌 2017年5月から余裕をもって行うことで、プロジェクトメンバーを育成しつつスムーズな導入を図りました。こうして経験値を高めたことで、2018年以降は毎年5~7社のペースで導入を進めることができました」(広瀬氏)
 「重視したのは、とにかく1社、2社からでも実績をつくり、次につなげていくこと。事前調査の段階で、グループ会社の要望もしっかり受け止め、それを対処しながらプロジェクトを進めてきたことが最大の工夫点です」と瀬田氏も強調する。
 システムに業務をあわせる標準化を原則としながらも、グループ会社にとって納得感のあるシステム移行を進めるために、必ずしも無理強いはしなかった。「どうしても必要な独自機能や、移行後も残したい帳票の書式があれば、B-EN-Gの協力を得ながらカスタマイズ対応を行ってきました」と情報システム部の神浩介氏は語る。
 さらに情報システム部 副主査の青山徹郎氏も、「導入難易度の高いグループ会社はB-EN-Gのコンサルタントが主導し、その他のグループ会社は自社のプロジェクトメンバー主導で導入を進めるという役割分担ができたことで、各社の経理担当者との信頼が醸成されていきました」と語る。

会計システム統一がもたらした成果

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三菱ガス化学株式会社
財務経理部 経理グループ 主席
西田 和明 氏


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三菱ガス化学株式会社
財務経理部 経理グループ 副主査
上高原 渉 氏

2022年12月現在、三菱ガス化学は国内26拠点、海外3拠点へA.S.I.A. Hi-Line(mcframe GA)の展開を終えている。途中で新たにグループに加わった会社に対する導入作業が途中で割り込む形で発生したため、当初のスケジュールより若干ずれ込んでいるものの、2023年度内には導入対象となるすべての国内グループ会社への展開が完了する予定だ。
 経理グループ 主席の西田和明氏は、「私自身も2004年からA.S.I.A. Hi-Lineを使ってきましたが、当時は不便に感じていた点は現在ではすっかり改善され、とてもユーザーフレンドリーな会計システムに仕上がっています。これならグループ各社の業務変革にも大きく貢献できそうです」と期待を示す。
そうした中、実際にすでに多くの成果が表れている。経理グループの上高原渉氏も「本社側からグループ各社の会計システムに直接ログインし、仕訳データを見ることができるようになりました。今後、損益増減などの原因追及の迅速化を目指し、各社の会計システムから仕訳データを収集できるようにするなど、グループ横断でのデータ分析を可能とするシステム環境構築を進めていきたいと考えています」と語る。
 さらに中込氏も「本社側からグループ各社のマスタ類を集中管理できるようになり、ガバナンスの強化につながりました。また、システム統一のおかげで税制対応による機能追加や、会計処理基準の変更による対応方法も一元化することができました。今後はさらに連結決算の早期化も見据え、データ連携を行いながら入力作業を効率化できる仕組みを構築していきます」と続ける。
 そして渡辺氏は会計業務の標準化にも着目している。「グループ各社の経理担当者が同じ会計システムを使うことで疑問点や問題点を共有しやすくなっています。各グループ会社でシステム利用に関するノウハウも溜まってきており、グループ全体での経理担当者の育成がしやすくなりました」と同氏が語るように、人材とシステムを一緒に育てながら新たな会計システムの業務定着は順調に進んでいるところだ。
 そして今後は、いよいよ海外グループへの会計システムの展開も本格化していくことになる。そうした中でもmcframe GAは主要な選択肢の1つに位置づけられており、国内と同じ会計システムの導入を希望する子会社を中心に導入を進めていく計画だ。

※本事例は2022年11月に取材したものです。

導入企業概要

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1918年、設立。大正時代に設立され、日本初のホルマリン製造に成功した三菱江戸川化学。そして新潟県に独自の天然ガス田を開発し、そこから発掘した天然ガスを原料としたメタノール、アンモニアなどの化学品の製造を手掛けてきた日本瓦斯化学工業。この2つの企業が1971年に合併して誕生し、50年以上の歴史を重ねてきたのが三菱ガス化学では、製品の90%以上を自社開発技術から生み出してきた「独創主義」にある。これまで強みとしてきた化学品・素材製品はもちろん、近年では地熱発電などのエネルギー資源事業、抗体医薬をはじめとするライフサイエンス製品にも注力し、サステナビリティや人々の健康など社会に貢献している。

商号 三菱ガス化学株式会社
MITSUBISHI GAS CHEMICAL COMPANY, INC.
創業 1918年
資本金 419.7億円
従業員数 2,461名【連結 9,888名】(2022年3月末現在)
事業内容 メタノール、過酸化水素、高機能エンジニアリングプラスチックス、MXDA・MXナイロンといった化学品・素材製品、さらには発泡プラスチック、エレクトロニクスケミカル、光学材料、半導体パッケージ材料、脱酸素剤エージレス ® といった機能製品まで、幅広く多様な事業を展開

企業ウェブサイト

 

導入製品

mcframe GA
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