「DX人材=IT専門家」は大誤解 自社育成が不可欠の理由

「DX人材=IT専門家」は大誤解

「デジタルトランスフォーメーション(DX)に精通した人材と言えば、ITベンダーで働くエキスパートというイメージをお持ちの方が多いのですが、実は違います」。そう説くのは、米国で製造業向けIoTソリューションの販売に力を入れるB-EN-Gアメリカの社長・館岡浩志だ。一体どういうことなのか。コロナ禍からの復興が急速に進む米国で日系製造業が備えるべき製造現場DXの進め方とその人材像について解説する。

※本記事は2021年4月に、スミス・ガンブレル&ラッセル法律事務所とB-EN-Gの主催で行われた米国在住の日系製造業向けセミナーの内容をベースとしています。

コロナ後も続くニューノーマル

米経済がコロナ禍から目覚ましい回復を見せています。ワクチン接種の普及やバイデン政権による大型財政出動の期待が個人消費を押し上げ、実質GDPはコロナ危機前の水準にほぼ戻りました。国内製品を優遇する「バイ・アメリカン政策」による後押しも受け、米製造業は空前の高稼働率になることも予想されます。

gdpIMFが4月に公表した世界経済見通しによると、2021年の米国の成長率予測は6.4%。
1984年以来、37年ぶりの高成長にあたる

一方、不安要素も少なくありません。テキサス州の大寒波やスエズ運河での座礁事故など、米国のサプライチェーンは不安定な状況が続いています。鉄鋼など各原材料費は値上がりしていますし、工場の稼働率上昇に労働者の供給が追いつかず、労務費も上昇してきています。

コロナ禍のような事業環境の急激な変化は今後も十分にあり得ます。コロナ前の時代にはもう戻れないことは明らかです。コロナ禍への対応として、日本と同様、米製造業でもリモートワークなど一部分でデジタル化が進みました。状況変化の続く時代への対応として、今後も米製造業の多くがデジタル化投資を優先対象としているとの調査結果もあり、引き続き進めていけるかが、企業成長の鍵となってくることでしょう。

DX人材はどこにいる?

とはいえ、製造現場でDXを進めることは簡単なことではありません。特に米国ではDXといっても、作業指示や自動化への関心が強く、データ活用のための取組みはあまり行われていません。

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DX時代に求められる人材像とは(写真はイメージ)

どうすればよいのでしょうか?

4月に行われた世界最大の製造業イベント「ハノーバーメッセ」では製造業のスペシャリストによる講演が数多く行われましたが、なかでもSAPの元CEOであるビル・マクダーモット氏の講演が印象に残っています。

同氏は、今回のパンデミックで光をもたらすようなことはあったか、という質問に対し、「It’s all about people」(人だよ)と答えたのです。

製造業のデジタル化を図る「インダストリー4.0」(第4次産業革命)が世界的な潮流となっていますが、実は人が中心のコンセプトだということはあまり知られていません。

18世紀以降、産業革命によって人は人にしかできない付加価値の高い仕事にシフトし、生産性を大幅に向上させてきました。2010年前後から始まった第4次産業革命では、IoTによって収集されたビッグデータを分析し、判断するロジックを作り上げ、活用していくことこそが、人の役割となります。ここで登場するのが「DX人材」です。

DX人材に必要な能力は主に3つあります。一つ目が、IoTデバイスを用いて必要なデータを収集・加工する「データエンジニアリング力」です。もう一つが、統計や数理の知識を用いてデータを分析する「データサイエンス力」。そして一番見過ごされがちなのが、実際のビジネスの場でデータを活用し、意思決定に反映する「ビジネス力」です。

DX人材が不足しているとよく言われますが、それも当然のことです。この3つの力を兼ね備えている人材はほぼいません。製造現場にはデータ分析に長けた人材が少なく、外部のITベンダーには顧客企業のビジネスを理解している人材は少ないのが実情です。

つまり、冒頭の言葉に戻りますが、DX人材と言えばITベンダーで働くエキスパートというイメージをお持ちの方が多いのですが、そうではなく、自社業務・運用の知識を持っている方が重要ということです。

米国では転職を繰り返すジョブホッピングが一般的ですが、どこの企業であっても中核メンバーは社歴の長い方が多く、そういう方こそがDX人材、もしくはこれから長く働いてくれそうな若手がDX人材候補ということになります。

DX人材に必要な能力を補う方法

市販のITソリューションを上手に活用することもDXの早道となるでしょう。先ほど3つの力を備えている人材はほぼいないと述べましたが、目的を定めてすでにパッケージ化されたITソリューションを使えば、製造現場人材が苦手なデータエンジニアリング力とデータサイエンス力を補うことができます。

abilityDX人材に必要な3つの能力

DXは新しい取り組みです。いきなり全部を対応しようとせず、まずはスモールスタートで担当者に経験と成功体験を積ませていくことが大事です。DX人材は貴重な次世代の財産となりますので、長期的な育成をしていけるかが成功するためのキーポイントとなるでしょう。


ポスト・コロナの米国で日系製造業がDX人材を育成する重要性についてここまで述べてきた。だが、転職社会の米国ではせっかく苦労して育てた人材が流出してしまうケースが後を絶たない。どうすれば優秀な従業員に長く働いてもらえるだろうか。労務管理などに詳しいスミス・ガンブレル&ラッセル法律事務所の猪子晶代弁護士が、米国人材のリテンション(引き留め)のための工夫を紹介する。

※2021年4月に、同法律事務所とB-EN-Gの主催で行われた米国在住の日系製造業向けセミナーの内容を抜粋しています。

福利厚生でリテンション

日系企業が米国人材をリテンションする際、第一に留意しておかなければならないことがあります。それは米系企業に比べて給与が低いことです。なぜ低いのでしょうか?

まず、日本の賃金が米国と比べて相対的に低く、日本の本社が米国内で働く人材の賃上げに否定的であることが多いということが挙げられます。

また特に製造業の場合、日本でも取引のある顧客から要求された価格を受け入れなければならないケースがあるほか、製品の価格を上げる交渉が非常に難しいことも多く、利益を出すために人件費をできるだけ抑える必要性があるという背景も影響しています。

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人材の流動性が高い米国ではリテンション施策が重要だ(写真はイメージ)

そういった事情はよく分かるのですが、製造業の場合、時給がたとえ1ドルでも高い企業があるのなら、従業員は迷わず転職してしまいます。近隣の製造業企業の賃金相場をこまめにチェックすることが欠かせません。

給与に限界がある中、健康保険や企業型の確定拠出年金(401k)、所得補償保険(Disability Insurance)といった福利厚生を手厚くすることで、優秀な人材のつなぎ止めを図る企業が増えています。

■3連休導入で満足度アップ

では、給与・福利厚生以外に工夫できる余地はあるでしょうか。

例えば、大学の各種コース受講や資格取得を会社の経費で支援するというのが挙げられます。特に高卒の従業員の中には、キャリアアップのために大卒資格をパートタイムで取得したいと考えている方が多いので、結果的にリテンションになることが多いです。

3連休を月に2回導入して離職率が下がった事例もあります。アトランタから約1時間の郊外にある企業では、大学・大学院時代を大都会のアトランタで過ごしたエンジニアが多く、スキルアップしたタイミングで都会に戻りたいと転職してしまうケースが続いていました。しかし、3連休の導入後は、有給休暇とセットで旅行する社員も増え、会社に対する満足度が上がったそうです。

勤務シフトを前倒しして午前6時に始業できるようにした企業もあります。朝は早くなりますが、その代わり午後2時に終業できるため、「幼い子供がスクールバスで帰宅する頃には自宅にいられて助かる」と、長く働く従業員が増えたそうです。

従業員のモチベーションを上げる施策も効果的です。日本では考えられないことですが、従業員を多く抱える米国の製造業では、遅刻を繰り返す従業員や携帯電話をいじってばかりの従業員も多く、真面目に働いてくれる従業員を探すのがとても大変だとよく聞きます。

その対策として、企業の中には減点制度を導入するところもあります。例えば、1回遅刻したら1点をカウントし、10点になったら解雇するといった具合です。

しかし減点制度では、不真面目な従業員を排除はできるものの、無遅刻無欠席の真面目な従業員に肯定的な評価がうまく伝わりません。そこで、きちんと毎日出勤した従業員を表彰し、ギフトカードを贈呈するなど感謝の気持ちを示す制度を取り入れている企業もあります(こうした勤務態度と結びついたギフトカードは給与としてカウントされることも多くありますので、詳しくは会計士・税理士にご確認ください)。1年の皆勤賞でなくとも、1カ月や数カ月単位でも構いません。また、ギフトカードに併せて皆勤賞の従業員リストを掲示板に張り出すことで、「真面目に働いてよかった」と従業員に感じてもらえるはずです。

Smith, Gambrell and Russell, LLP (スミス・ガンブレル&ラッセル法律事務所)のWebサイト

(監修・共同通信デジタル)漫画_世界で闘う準備はあるか

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