ベトナム人社員の離職どう防ぐ? 進出27年の老舗に学ぶ

優秀なベトナム人材 定着のコツ

日系企業の海外進出先としてベトナムが注目を集めている。市場の成長性や安定した政治体制に加え、優秀な労働力が豊富な点が大きな理由だ。一方で、社員の離職率の高さに悩む企業も多い。mcframeのパートナー企業で、同国に進出して27年になる三谷産業の子会社、Aureole(オレオ) Information Technology Inc.(AIT)の桶葭(おけよし)宗賢社長に、ベトナムの人材を定着させるコツや幹部育成の仕組みについて聞いた。

輝けるベトナム人材

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Aureole Information Technology Inc.の桶葭社長

金沢市に本社を置く三谷産業がベトナムに進出したのは1994年のことだった。1986年に「ドイモイ(刷新)政策」で市場経済が導入されてまだ数年あまりだったが、若いエネルギーにあふれる新興国の姿に可能性を感じたという。

現地企業と合弁会社を立ち上げ、1997年には初の単独出資となる化学品会社を設立。現在ではAureoleグループとして、7社16拠点、従業員約2300人の規模にまで成長した。
※「Aureole」は、フランス語で「栄光」の意。

7社のうちの一つで、情報システム事業を手掛けるAITの桶葭社長は、ベトナム人材の魅力について次のように語る。
「成長意欲が高く、何かを吸収したいという人が多い。自分の専門領域を強く意識しており、そのための勉強は欠かさない。スキルの差別化にも熱心で、例えばプログラミングだけでなく語学力も磨こうと、退勤後は学校やeラーニングで学んでいる。ITに関しては日本より高いスキルを持っている人も珍しくない。従業員の平均年齢も若く、一緒に仕事をしていて元気をもらえる」

異なる文化・高い離職率

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一方で、ベトナムの人材をマネジメントするにあたり、注意したい点もあるという。その一つがやはり文化の違いだ。

「依頼内容を正確に伝えることにかなり神経を使う。想像以上に日本人が当たり前だと思っていることが当たり前ではない。例えば、データ分析ツールで損益計算書のダッシュボードを作ってほしいと指示した時、日本では売上高、売上原価、売上総利益といった順に並ぶものを想像するが、まったく違う順番に並んだものを作ってきたことがあった。言葉だけではなく、できるだけ文字や画像で繰り返し伝えることが大切だ」

また、20%を超えるともいわれるベトナムの高い離職率も問題だ。今より少しでも良い条件のオファーがあると、躊躇なく転職してしまうのだ。こうしたジョブホッピングを防ぐ意味でもAITが力を入れているのが「リチーミング(Reteaming)研修」だ。リチーミングとは、1990年代前半にフィンランドの精神科医らが考案したプログラムで、心理学的アプローチなどを通じてチームワークの強化を促すことが期待できるという。

三谷産業では2009年からリチーミング研修を始め、Aureoleグループでも2015年から実施してきた。桶葭社長は「お金だけではない仕事の魅力、仲間の魅力を知ってもらうことで、社員の定着を図っている」と狙いを語る。公平で客観的な評価制度の整備も重要だ。AITでは、自分の目標や成果を可視化できるツールの導入を若手社員も交えて議論し、2021年4月からのスタートに向けて準備を進めている。

経営現地化への取り組み

かつては製造拠点としてのイメージが強かったベトナムだが、コロナ禍でも経済成長を続けており、今やマーケットとしても高い期待を集めている。

AITも主力事業は日本企業のソフトウエア開発のオフショア受託だったが、近年は幅を広げ、ベトナムの日系企業に対して、三谷産業グループが開発した業務効率化ソフト「POWER EGG」や、B-EN-Gが提供している「mcframe GA」などの会計・生産管理システムの導入支援を行うなど、ベトナム市場の取り込みを強化している。

そのためにも欠かせないのが経営の現地化だ。桶葭社長は「さらに成長していくためには、ベトナムをよく知っている人材の力をもっと活用していかなければならない」と力を込める。

AITでは、有望なベトナム人社員を毎月2日間、2年間にわたって三谷産業本社に出張させ、経営幹部育成講座に参加させている。経済学や社会学などの講義を通じて幹部候補に求められるマインドを身につけてもらう意図だ。

このほか日本への長期出張や本社などへの出向を積極的に取り入れたり、ジョブローテーションを実施したりして、専門技術や経営ノウハウの共有に努めてきた。この結果、AITではこれまでに2人のベトナム人取締役が誕生している。

ホーチミン市にあるAITの本社オフィスには一風変わった組織図がある。逆ピラミッドの最上位にベトナム人社員一人ひとりの名前が並び、その下に経営幹部、最下層に桶葭社長の名前が書かれている。三谷産業の「経営者が従業員を支える」というポリシーを象徴するものだという。

桶葭社長は「ベトナム人と一緒に考え、ともに教え合い、真の意味でベトナムに根ざした会社を目指していきたい」と語る。AITの今後の展開に目が離せない。

ベトナム人材が生き生きと働くには

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AITでベトナム人2人目となるダイレクターに就任したドンさん

2019年にAITでベトナム人2人目のダイレクター(取締役)に就任したゴー・ユイ・ドンさんに、これまでの歩みや今後の展望について聞いた。

「嬉しさと同時に、すごい緊張と不安が襲ってきた」。ドンさんはダイレクターに昇格した時の心境をこう振り返る。

「今まではチームメンバーの管理さえしていればよかったが、これからは会社と社員の両方の立場について考える必要がある。大きなチャレンジだったが、社長に励まされて自信を持つことができた」

ドンさんはホーチミン工科大学を卒業した2001年、AITの創業と同時にITエンジニアとして入社。当時のベトナムはまだローカルのIT企業が少なく、外資系企業で先進的な技術を学びたいと考えたという。

今でこそ日本語能力試験で難易度が2番目の「N2」に合格しているが、当時はまったく日本語を話すことができなかった。

それでも日系企業であるAITへの入社を決めたのは、ベトナムの発展に貢献したいという三谷産業グループの理念に共感したからだ。「AITで働くことがベトナムの発展にもつながる」と考えたという。

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2004年と2007年には、親会社の三谷産業や関連企業に出向し、念願だった日本で働くという夢をかなえた。東京で日本語力を磨きつつ、日本人社員とベトナム人社員の橋渡しを行うブリッジエンジニアの経験を積んだ。

「日本人社員のやり方を目の前で見ながら、仕事の管理の仕方を勉強することができたのは大きな収穫だった」

ドンさんの目から見た日本企業の良さとは、「改善」への意識の高さだ。このほか、ルールを順守すること、チームワークを大切にすることも印象に残ったという。

2020年1月には、ドンさんの出身地である中部のフエ市に新設された開発拠点・フエ支店の支店長にも就任。「20代の若い社員が多く、最初はマネジメントが大変だと思ったが、意欲的な姿に刺激をもらっている。フエは勤勉で真面目な人が多い。良い人材をたくさん発掘していきたい」という。

今年で入社20年。会社の創業期と比べて日本人社員とベトナム人社員の間のコミュニケーションや役割分担に変化も感じているという。

「以前は、ほとんどの社員が日本語を話せず、日本人の上司や顧客企業の日本人とは通訳を介して意思疎通を図っていた。しかし、それでは時として自分の意図が正確に伝わらないのが悩みだった。今ではリーダークラスの半数以上が日本語を話せるため、仕事がスムーズに進むようになった。業務の計画策定など、日本人の上司が担当していた仕事も徐々にベトナム人社員に移譲されてきている」

では、ベトナム人社員が日系企業で生き生きと働くには、どんな環境がベストなのだろうか。

「まずは社員を成長させる機会を会社が与え、各社員と会社の目標が結びついていることが大切だ。二つ目は、上司が部下を応援すること。三つ目は、感覚ではなく成果に基づいた公平な評価を行うこと。そして、仕事と生活のバランスを取ることだ。ダイレクターとして社員の相談に乗り、さらなる環境整備に努めていきたい」

夢はAITをベトナム人の誰もが知っている有名なIT企業に成長させることだ。「今はまだ日本企業からの受託開発が多いが、将来的にはベトナムに加えて東南アジアの国々に会計や生産管理のシステムを導入できるまでに成長させたい。そのために私たちはますます知識と経験を高めていく必要がある」とドンさんは意気込む。

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Aureole Information Technology Inc. (AIT)
三谷産業100%出資のグループ会社として20013月にベトナムホーチミンシティに設立。ソフトウエア開発とベトナムにおけるパッケージソフトの導入サポートを提供している。ソフトウエア開発ではスムーズなオフショア移行のため日本語を話せるベトナム人をブリッジSEとして派遣も行い、さらには日本語人材の育成と品質向上のため、日本での研修を積極的に取り入れている。また、B-EN-Gが提供している会計システム「mcframe GA」、および生産・原価管理システムの導入支援も行い、ベトナムでの製品拡販を目的にセミナーを定期的に開催している。

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(文・共同通信デジタル 須藤祐介)
※本インタビューは2021年1月現在の内容です。

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