ここでしか聞けない!海外拠点のリアル話。海外拠点見える化システムの作り方

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本記事は2021年7月20日ウェビナー「ここでしか聞けない!海外拠点のリアル話。海外拠点見える化システムの作り方~本社によるコントロール&ガバナンス強化に向けて~」のレポートです。

モデレータ:IT Leaders 編集委員 川上潤司 氏
モデレータ:IT Leaders 編集委員 川上潤司 氏

今回のテーマは「海外拠点見える化システムの作り方」ですが、グローバル展開がひとつの大きなテーマです。今の時代国内だけ見ていると持続的成長が難しいため、多くの業界においてグローバル展開を視野に入れなければならない状況です。また市場競争が激しくなってきています。そのような競争をどのように勝ち抜くか、基本的には各拠点の実情をリアルタイム把握し全体最適の視点で意思決定をしてくことになるかと思いますが、これが難しいです。各拠点では税制度や商習慣など様々な特性がありますから、手っ取り早いのは現地のパッケージを入れることが良いだろうと。しかし1拠点ならまだしも多拠点それぞれでやってしまうと、いざ本社で情報をまとめてみたときに各拠点のデータの粒度やデータが意味することなどがバラバラで本社では適格な判断ができないというのが実情です。これは海外企業展開のあるあるです。

そこでグローバルでグランドデザインを描かなくてはいけないということに気が付くわけですが、昨今トレンドの一つになっているのが、「本社には大規模なERPシステムを入れ、各海外拠点は機能を絞り込んだライトなパッケージを入れる」という2層ERPシステムというものです。形だけそろえればよいというわけではなく、拠点でオペレーションするのは人であって、現地の人に理解してもらう必要があります。

すでに海外に展開している企業は苦労されている状況ですが、人の問題は特にやってみないとからないということもあり、先駆的に取り組んでいる企業のリアルなお話が参考になるのではと思い、本日の対談は、この問題にすでに取り組まれているサンワテクノス株式会社 情報システム部長 森田健太郎 様にお越しいただいております。

2層ERPモデルに行きつく前の問題や課題、苦労、実益とは?


サンワテクノス株式会社 情報システム部長 森田健太郎 様

当社が海外に進出する場合、まず、営業活動を立ち上げるのが最優先事項です。そして、安定した販売活動を開始するとなると、「発注書」「請求書」などの発行が必要となり、当然、何らかのシステムがいるよね、という話になります。スピード優先ということで、地場のポピュラーな「パッケージシステム」が選ばれる傾向がありましたので、結果的に拠点ごとにバラバラなシステムが導入されたということです。これは国ごとの商慣習や税制への対応という点では理にかなっている選択である面もありますが、本社で一元的に実績を管理するという面でさまざまな問題が噴出しました。

例えば、本社で「グローバルダッシュボード」の仕組み構築に際し、海外各拠点に売上データの提示を求めたところ、ある拠点からは「出荷ベース」のデータが、別の拠点からは「入金ベース」のデータが送られてくる、という事態に直面しました。要は、拠点ごとのシステムで抽出できるデータの制約もあるので、数値の意味、基準にズレが生じてしまっていました。
また、別の例として、会計業務優先でパッケージを選定した拠点では、会計システムを半ば強引に販売管理にも適用したことで、受発注から入出荷につなげる業務は行えても、受発注残高がすぐには把握できないといった管理レベルの拠点もあったと聞いています。

本社サイドとしては、拠点ごとの実状がよく分からず、適正な意思決定が下せないという悩みがありました。拠点で機能を追加したくともITの専門家もいないですし、現地ベンダーをうまくコントロールできず、時間ばかり過ぎていきました。また、オンプレミス型のため運用負荷が高い、システム導入に携わった担当者が日本に帰任・退職してしまうと、途端にシステム運用に支障を来すなど、システムの安定運用には程遠いと言わざるを得ない状況でした。

これを根本から見直すため、本社ERPシステムとは別に、海外拠点向けのライトなシステムを導入し標準化を図っていく、いわゆる2層ERPモデルに行き着いた次第です。

サンワテクノスにとって身の丈にあったERPを選ぶ理由とは?

当社に転職した時点で、すでにmcframe GAシステムの採用が決まっていたため、当社での実現性についてはお答えできません。ただ、個人的な見解を申し上げるなら、前職でOracle EBS(Oracle E-Business Suite)を導入していたことを念頭に置くと、まず、大手ERPは例外なく機能が豊富で、故に設定するための選択肢も多く、機能(ファンクション)専門家のサポートや、DBエンジニアやアドオン開発のための技術(テクニカル)専門家も必要になってきます。

これらを大規模で導入する過程ではこれらのリソースを管理しなければならず、一方、システム稼働後もサーバ運用やシステム環境維持が難しいため、拠点内にしっかりしたIT組織がないと、とても運用できないと思います。また、さまざまなライセンス費用が発生しますので、要員面、コスト面からも当社規模の拠点にはフィットしなかったものと考えます。やはり身の丈にあった必要最小限の機能でいいのだという判断がないとイニシアティブが取れないのではと思います。

海外拠点への導入プロジェクトを巧く進めるためには

一方、当社の場合、大半の海外拠点は10~30人と決して大きな規模ではありません。基本的に拠点の責任者(日本からの出向者)とベクトルを合わせて導入を図ってきましたので、これまで本社と現地で方向性がズレるようなことはありませんでした。また、日本語を話せる現地スタッフも多く採用していましたので、細かな機能面でもスムーズな意思疎通ができていたと思っています。ただし、これらはあくまでも導入済みの6拠点での話であって、2022年1月にmcframe GA稼働を予定している上海法人は200人規模の拠点です。「用友」や「金蝶」といった中国でメジャーなERPシステムを使った方が(中国当局に対して)いろいろと都合がいい、との声もありましたので、ここだけは本社からグローバルITの方針を示しながら進めています。

もっとも、ガバナンスだけではなく、コミュニケーションも大事だと考えています。相手が何を考えているかを理解することは大事ですし、繰り返し、繰り返し伝える、ということをしていました。腑に落ちなければ、何事もうまく進まないのは国内と同じです。個人的にも海外拠点に出張する際は、現地スタッフとできる限り話をするよう努めています。時には、一緒に夕食を食べたり、お酒を飲むことで胸襟を開いてもらうことも必要でしょう。いずれにせよ、相手に対するリスペクトがあってこその信頼関係と思いますし、良好な関係性が築ければ俄然やりやすくなる環境を構築するのは間違いありません。逆に「本社は敵」と思われたら難航必至です。

本社は敵ということを思われないためには

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物事を最終決定する際、本社サイドからの強制ではなく、自分たちが納得し、最終判断したんだ、という形に持っていくことが重要だと思っています。どうやって納得させるかというと、現地ベンダーパッケージに気持ちが傾いている拠点にmcframe GAを導入したい場合、「本社の意向だから」と強行突破するのは得策ではありません。拠点が導入を希望するローカルパッケージを「プランA」とするなら、mcframe GAを「プランB」といった形で選択肢に加えます。そして、プランBの場合、「他拠点もmcframe GAを導入していることから、本社はデータを横串で見ることができるようになり、したがって受益者負担の原則に基づき、月額利用料金も本社が〇〇%負担します」などのメリットを示すのです。誘導と言えばそれまでですが、現地法人が納得の上で決めたとなれば、自らの責任で動いてくれるものです。また、口頭だけでなく、客観的な比較表を作る丁寧さも大事です。もちろん現地語で。当社では、実際にそうやってmcframe GAによる標準化・共通化へと導いてきました。

また仕事以外でもローカルスタッフと会話をしたり、食事に行くなどしていましたが、中国、台湾、香港などはバイチュウを飲む、とか欧米では車を運転して帰らないといけないので、強いお酒で飲みすぎるということよりはビールを飲むなどしていました。基本的に英語圏でなければ、もう片言のドイツ語や中国語を話すとか、そういう些細なことが重要で、心を開くきっかけになります。

クラウド活用の価値、特にコロナ禍とからめて言えること

当初入社したときは、本社サイドに(少なからず)クラウド利用への抵抗感があったことは事実です。しかし、ROI(投資収益率)やTCO(総保有コスト)面、そして、多様な働き方の実践という観点からもククラウドが有利なことは間違いありませんということを説明し、会社に理解してもらいました。そして、mcframe GA導入2拠点目から、クラウドに切り替えました。欧米ではコロナ禍で厳しいロックダウンなどの措置が取られましたが、既存の6拠点は2018年までにクラウドで導入を終えていましたので、スムーズにリモートワークに切り替えることができました。

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ちなみに、本社でも2018年にデスクトップPCを廃止するとともに、情報系システムをMicrosoft 365に切り替えました。2019年度には全社員を対象にMicrosoft Teamsの使い方について「体験会」という形で教育を行いましたが、その教育が完了した、まさにそのタイミングで「緊急事態宣言」が発出されたんです。間一髪のタイミングでしたが、これが功を奏してスムーズにリモートワークに移行することができました。おそらく、今般のコロナ禍でクラウド否定派はほぼいなくなったと考えています。

具体的なソリューションを選定する上で念頭に置いておくべきことは

大手ERPの話ではないですが「身の丈に合った」システムを選定することは大事です。ただ、それ以上に地域性の検討は重要だと思っています。先ほど申し上げたのですが、中国には「用友」「金蝶」といったディファクト・スタンダードなERPシステムがあるとお話しましたが、このように地域ごとに「鉄板のソリューション」があるということは念頭に置いておくべきだと思います。そのうえで、仮に当社上海拠点に「用友」「金蝶」を導入していたとしても、上海の現行システムが本社ERPを模した多くの機能を組み込んでいますので、これらと同等の機能を実装することは難しかったと思われます。特に当社の独自文化である「受注利益」などは、概念を理解してもらうことすら厳しかったであろうと考えます。

一般論として、中国社会では中国製品を導入すべきとの感情が根底にあることは、知っておくべきです。幸いこのところ、良好な日中関係が続いていますが、日中関係が悪化してしまうと、中国で不買運動が発生し、日本製のソリューションを展開することは一気に難しくなります。このように海外へのシステム導入においては技術としてのソリューション選定も重要ながら、時々刻々と変化する社会情勢を注意深くウォッチしておくことも大きなポイントと考えています。

*本記事に記載されている社名、製品名などは、各社の登録商標または商標です。

サンワテクノス株式会社及び森田様について

サンワテクノス株式会社は、産業用エレクトロニクス、メカトロニクス分野における技術系商社です。大手電機メーカーの代理店から出発し、電子、電機、機械の3分野にまたがって事業を展開するとともに、昨今ではエンジニアリング機能も併せ持つ形で成長しています。1990年代に入ってから海外展開に着手し、当初はメーカーに同行して、現地ニーズにいち早く対応することを目的としていました。その後、現地 調達、仕入代行など海外に軸足を置いた事業を積極的に展開してきました。これに応じて、海外での拠点設立を進め、現在、海外現地法人は13(ブランチを含めると28)拠点を数えます。その標準ERPシステムとして、mcframe GA導入を展開しているところです。

森田様は、情報システム部の責任者を務められています。前職の総合電機メーカーでも情報システム部に在籍し、主に海外現地法人向けの基幹システム導入サポート、ITサービス展開など担当をされていました。駐在経験は、欧州に約2年、米国に約2年、中国に約4年間です。

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