【調査結果サマリー】日系海外進出企業のIT活用動向調査2026年 次の10年の競争力を左右するグローバル経営の成熟度

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ビジネスエンジニアリングとデロイト トーマツ戦略研究所は、海外で事業を行う日本企業を対象に、海外拠点での情報システム/デジタル活用の実態を調査した。

1.調査結果3つのポイント

① 海外拠点の現地化は「量」から「質」へ
コロナ禍をきっかけに、日本人駐在員を減らし、現地の人材に任せる動きが進んだ。
一方で、人事企画や製品・サービス開発など、付加価値の高い領域まで海外人材が主体的に担える海外拠点はまだ少ない。

② グローバル経営のボトルネックは「人材」
IT・DX課題のトップは、3回連続で「人材不足」(約6割)となった。2026年は「AIなど先端技術の活用が不十分」(41.4%)が2位に入り、AI時代の人材ギャップが見えてきている。また「グローバル人材の育成」も重要度が上昇している。優秀な海外人材の不足が、現地化を次の段階へ進めるうえでの壁になっている。

③ 海外拠点のIT活用は「強化すべき」が9割超
「非常に強化する必要がある」51.2%、「多少強化する必要がある」40.7%で9割を超え、前回(2024年調査)の回答率を上回った。現場にはExcel中心の属人化した業務が残っている。業務効率化に留まらず、ERPなどの情報システムを整備し、経営基盤構築を推進する必要がある。

2.不安定化する時代に問われる事業変革と成熟度向上

海外事業に影響がある国際情勢の変化として、2024年・2026年ともに上位は「為替の変化」「海外での人件費上昇」となった。2026年には「海外での競合環境の変化」が大きく伸びた。現地企業の台頭に加え、中国・欧米・韓国など多様なプレイヤーとの競争が激化し、デジタル化・サービス化でビジネスモデルも変化している。
また、調査を行ったのは2026年1月だが、現在は中東の紛争が大きなニュースとなっている。調査時期によっては、地政学的リスクの高まりやエネルギー価格の上昇が上位になった可能性がある。変化が大きく不安定化する国際情勢は、海外事業を行う上での大前提となっている。

一方で、企業が海外拠点で重視するのは「市場が大きい・有望」、「経済成長」といった成長要因である。少子高齢化で国内市場が縮小する中、海外に成長機会を求める流れは今後も続く。
低価格生産や日本からの技術移転を目的とした従来型の海外進出から、ローカライズを通じた需要獲得と国際競争力向上へ、海外事業の位置づけは変わった。にもかかわらず、海外拠点の機能拡充が追いついていない企業は多いとみられる。本社と海外拠点の役割や意思決定のあり方を再設計し、現地に任せる領域では任せ切り、同時にガバナンスを効かせる。この両立ができれば、グローバルに展開する企業として、経営の成熟度を高めることができるだろう。

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3.海外人材の登用は進んだが「意思決定」と「機能拡充」はまだこれから

コロナ禍を経て、日本人駐在員を減らし、海外人材に役割を移す動きが進んだ。主要海外法人の管理職(部長以上)に占める海外人材比率は「50〜99%」が最多(38.4%)である。管理職が海外人材100%の企業も含めると42.4%に達し、人員数の面でのローカライズは進んでいるといえる。
ただし、人数のローカライズが、そのままローカライズの質の拡充に繋がっていない。人事企画・人材企画(採用計画、人材開発企画、教育計画など)の担当は、約6割で日本人が関与している。さらに、現地市場獲得に直結する製品・サービス開発機能でも、約7割が機能不足の課題を抱えている(「役割はあるが不十分」39.6%、「役割はないが必要」27.1%)。

海外拠点の成熟度は、時間の経過とともに自然に上がるわけではない。調査対象の約8割は設立12〜20年以上前で、歴史は長い。しかし、海外拠点が自律的に意思決定し、高付加価値機能も備える企業は限られることが明らかになった。

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4.成熟度向上のボトルネックは経営・IT双方の人材不足

情報システム/デジタル技術/DXの課題では、「人材が不足している」が2022年以降3回連続で1位(約6割)である。2026年に追加した「AIなど先端的な技術の利活用が不十分」も41.4%で2位となり、AI時代の人材ギャップが表面化している。
海外ではデジタル化とAI活用が加速し、IT人材への投資も活発である。日本企業はIT人材の高度化で後れを取っている恐れがある。日本国内では海外と比較したAI利用の遅れが指摘されており、海外企業のほうがAIの活用を大胆に進めていると考えられる。また、本調査はASEANやインドなど、レガシーシステムやインフラを持たず、先端技術を一気に取り入れている国からの回答が多い。日本本社側には、海外の優秀なAI・IT人材の知見を吸い上げる視点を持ち、共同で活用を進める意識改革が求められる。

経営課題では「市場環境の変化に対応した経営計画・事業計画の立案」と「売上高の増加(売上・シェア拡大)」が上位である。加えて「グローバル人材の育成」も重要度が高まっている。管理職に占める海外人材比率が高い企業でも、海外人材によるマネジメントが確立していないケースがある。背景には、海外人材を信頼しきれない日本人側のマインド面の課題と、現地で優秀なマネジメント人材を獲得・育成できていないという課題の双方があるといえる。

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5.脱Excelは緩やかに進むがまだ45.6%が「ほぼExcel」

経営データ(会計・販売・購買・在庫)の管理方法は、2024年と比べてリアルタイム連携が増え、アナログからの脱却は少しずつ進んでいる。それでも「経営データはほぼExcelでやり取りしている」が最多で45.6%である。これは単なる「業務効率化」の話ではない。グループ横断で経営データを扱う経営基盤の問題として捉え直すことが重要である。ERPなどの整備を進め、本社・海外拠点双方が、データに基づく計画立案や経営判断を行える状態を作る。そうすれば、海外拠点のブラックボックス化を防ぎ、成熟度を引き上げられる。

海外事業の成長に必要なITシステムの重点項目では、「経営情報のリアルタイムな把握」が3回連続で1位である。今回から追加された「AI・IoTなど新しいデジタル技術の活用」「セキュリティの強化」も上位に入り、基幹システム再構築の重要度も高まっている。なお「AI・IoTなど新しいデジタル技術の活用」は、海外拠点の回答が本社より10ポイント以上高い。現地の危機感が強いことがうかがえる。

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6.変化が大きい今こそ、成果を出すための経営再設計へ

2026年調査は、グローバル経営において今後取り組むべき課題を明らかにしている。海外人材を増やし、権限を渡すだけでは十分ではない。現地の意思決定力と実行力を高め、地域に根差した価値創出という「成果」に踏み込めるかが問われている。そのために投資すべき分野は大きく二つである。

■    データ基盤への投資
ERP等で経営データを可視化し、Excel依存と属人化を減らす。AIの実装力を高めるためには、海外の先行知見も活かすことも必要となる。
■    人材への投資
海外拠点で経営人材・IT人材を獲得し、育成し、任せ切れる状態を作る。そのために、魅力的なキャリアパスを設計する。

事業環境が大きく揺れる今こそ、海外事業の改善策にとどまらず、企業全体の競争力を底上げする投資として、グローバル経営の土台を再設計する好機である。この局面でどこまで改革を進められるかが、次の10年の成長を左右する。

 

【調査概要】
調査方法:Webアンケート調査
調査期間:2026年1月
調査対象
■    海外拠点を持つ日本企業
■    国内拠点(本社含む)及び海外現地法人(東アジア、ASEAN、南アジア、米国)に勤務する会社員
■    全業種
有効回答数:660件

【コラム著者紹介】
小林明子氏
デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ戦略研究所 主任研究員
矢野経済研究所で主席研究員を務めた後、デロイト トーマツ グループが2022年に設立したシンクタンク、デロイト トーマツ戦略研究所に参画。IT・デジタル領域の調査研究を専門とする。


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