アクセル・ヘニング・ザレック博士が語る、欧州ビジネスの本質と日独協業の可能性

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【話者紹介】   

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President
Axel Saleck 氏

物理学者としてのキャリアを経て1996年にSAP入社。ラテンアメリカ向け製品開発、SAP Japan開発センター副所長を歴任後、グローバルCo-Innovation Lab責任者として米国・BRIC諸国に技術協業拠点を構築。独立後も国際的なSAPプロジェクトおよび製造業のグローバル展開を支援。2025年5月にSAPのグローバル展開を軸にB-EN-Gおよびmsg Plautと戦略的パートナーシップを締結し、日欧の製造業をつなぐ架け橋として活動している。

【聞き手】   

watanabesanビジネスエンジニアリング株式会社
執行役員 
グローバルビジネス推進本部長
渡邉 祐一
2000年、B-EN-Gに入社。主に製造業向けのERP関連業務に従事。2011年よりタイ拠点に赴任しmcframeビジネスの組織を立ち上げ。プロジェクトマネージャーとしてタイ国内で複数のシステム構築を経験した。その後、タイ現地法人社長としてタイ拠点全体をマネジメント。2023年に日本に帰任しグローバルビジネス推進本部長に就任し、現在に至る。


研究者からグローバルイノベーションリーダーへ

渡邉: 本日はよろしくお願いします。Axelさんは、研究者からIT業界へ転身され、その後、日本を含むグローバルな舞台で活躍されてきました。まずは、そのキャリアの歩みと、B-EN-Gとの出会いについてお聞かせいただけますか?

 Axelさん:  私はもともと物理学を専門とする研究者でした。1996年にSAPへ入社する前はドイツと日本で研究活動に従事しており、当時はIT業界とはまったく縁のないキャリアを歩んでいました。しかしSAPへの入社を機にキャリアは大きく転換します。最初はブラジル向け製品のローカライゼーション開発チームに参画し、その後はラテンアメリカ市場向けローカライゼーションのプロダクトマネージャー兼開発マネージャーを務めました。各国の法制度や商習慣に対応した製品開発を推進する中で、グローバルビジネスの基礎を学ぶことができました。Axelsan-2

2004年には再び日本へ赴任し、SAP Japanの開発センターで最終的に副所長を務めました。当時の私は、日本企業の高い技術力に大きな可能性を感じていました。SAPの標準機能を導入するだけでなく、先進技術を組み合わせることで、顧客に新たな価値を提供できると考え、パートナー企業との技術協業を推進する組織の立ち上げを提案しました。

その中で特に強い印象を受けたのがB-EN-Gです。当時、多くのSAPパートナーがシステム運用に対して保守的な考えを重視する傾向にある中、B-EN-Gは新しい技術への挑戦を恐れず、「まずやってみよう」というフロンティア精神を持っていました。私はその姿勢に大きな可能性を感じ、日本で「エンタープライズ・サービス・アーキテクチャ・コンピテンスセンター」を設立する際の最初のパートナーとしてB-EN-Gに参画いただきました。

その後の活動がSAP本社から高く評価され、約1年後にはその功績を称えた当時のSAP CEO・Henning Kagermann氏の招待により、私はB-EN-GのCEOおよび技術担当執行役員とウィーンで開催されたSAPのグローバルカンファレンスに参加し、同氏と直接議論する機会を得ました。

渡邉: そうした取り組みを経て、Axelさんご自身はその後どのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。また、グローバルビジネスとの関わりがどのように広がっていったのか、お聞かせください。

 Axelさん:  その後ドイツに戻り、日本で推進していたCo-Innovation Labの取り組みをグローバルへ展開し、その責任者を務めました。当時私は、世界経済の重心が先進国から新興国へと再配分されていくと考えており、ブラジル、インド、ロシア、中国といったBRIC諸国に加え、米国にも拠点を設立し、グローバルなイノベーションネットワークの構築を推進しました。

その後独立し、数年間にわたりインダストリー4.0の推進に深く携わりました。2011年のハノーバーメッセでは、SAPおよびハードウェアパートナー各社と共同で開発した「Industry 4.0 in a Box」というポータブルな実証モデルを展示しました。当時、インダストリー4.0はまだ新しい概念でしたが、その本質はOT(Operational Technology)とビジネスITを融合し、製造現場と経営をデジタルでつなぐことにありました。

私は以前から、日本はOTや製造技術、ハードウェア分野において世界をリードする存在だと考えていました。そのため、インダストリー4.0の可能性を探る中でも、日本企業がどのような技術や取り組みを進めているのかに強い関心を持ち続けていました。

「競争」と「協調」を切り分けるマインドセット ードイツ式・産官学連携が生み出すイノベーションー

渡邉: 日本とドイツはともに製造業を強みとする国ですが、日本の製造業関係者からは、ドイツの産官学連携を高く評価する声をよく耳にします。実際、日本企業の中にはドイツ拠点を活用し、フラウンホーファー研究機構の取り組みを調査している企業もあります。
一方で、日本では企業、大学、政府それぞれが優れた活動を行っているものの、継続的な連携やエコシステムの形成という点では課題もあるように感じています。その点、ドイツでは産官学が一体となってイノベーションを推進している印象がありますが、その背景にはどのような考え方や仕組みがあるのでしょうか。

Axelさん: 一般的に、産業界と学術界の間には世界共通の距離感があります。産業界は「学術界は現実のビジネス課題を理解していない」と考え、一方で学術界は「企業は短期的な利益を優先し、本質的な研究には関心が薄い」と捉えがちです。フラウンホーファー研究機構が成功している最大の理由は、この両者の溝を埋める「混合資金(Mixed Funding)」の仕組みにあります。研究機構は政府から基礎資金を得ていますが、それだけでは運営できず、予算の大部分を産業界から獲得しなければなりません。そのため、企業を顧客として捉え、実際の産業課題の解決に取り組むことが求められます。結果として、学術研究機関としての中立性を保ちながら、企業にとって価値ある成果を提供するイノベーションパートナーとして機能しているのです。

さらに重要なのは、「競争領域」と「非競争領域」を明確に切り分けている点です。製品やサービスを市場に投入し、顧客価値を競う領域では各社が独自の強みを発揮して競争します。一方で、その前段階にある基盤技術の研究、標準化、人材育成、将来技術の探索といった非競争領域では、競合企業同士であっても積極的に協力します。

フラウンホーファー研究機構は、この非競争領域における産官学連携のハブとして機能しています。企業、大学、政府が共通の課題に対して知見やリソースを持ち寄り、将来の産業基盤を共同で構築する。そして、その成果を土台として、各企業が競争領域で独自の価値を創出していくのです。

私は、この考え方は日本企業にとっても非常に重要な示唆を与えるものだと思います。すべてを自社だけで抱え込み、あらゆる領域で競争するのではなく、業界全体の発展につながる非競争領域では積極的に協力し、共通基盤を強化する。そして競争領域では、それぞれの強みを活かして差別化を図る。この「協調すべき領域と競争すべき領域を分けて考える発想」こそが、ドイツの産官学連携を支える重要な思想であり、日本企業が今後のイノベーション創出や国際競争力向上を考える上でも、大いに参考になるのではないでしょうか。

渡邉: 非常に興味深いお話です。特に、競争領域と非競争領域を明確に分け、非競争領域では競合企業同士でも協力するという考え方は、日本企業にとっても大きな示唆があるように感じます。
一方で、日本企業には現場力や改善活動といった強みがある一方、業界全体で将来の標準や共通基盤を議論する機会はまだ限られているようにも思います。こうした観点から、日本企業はドイツの産官学連携や協業のあり方から、どのようなことを学ぶことができるのでしょうか。

Axelさん: 日本の強みは、現場に根差したボトムアップ型の改善力にあります。高い規律と粘り強い努力によって、優れた品質や効率を実現してきました。一方で、個別の課題解決に優れる反面、業界全体や社会全体を見据えた共通の原則や標準を構想し、それを基点に変革を進めるアプローチは比較的弱い傾向があるように感じます。これに対してドイツでは、まず全体を貫く原則やアーキテクチャを定義し、その上で具体的な仕組みや運用へと落とし込んでいくトップダウン型の発想が重視されます。今日のグローバルな競争環境においては、この二つのアプローチを対立的に捉えるのではなく、相互に補完しながら結び付けていくことが重要だと考えています。Axelsan-3

また、欧州企業は将来の市場形成に向けた「競争前段階(プリマーケット)」において、競合企業同士が協力することに長けています。各社が単独で競争する前に、標準化や基盤技術の確立、将来ビジョンの共有といった非競争領域で連携し、産業全体の発展を目指すのです。

日本でも近年、「インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)」のように、競合企業が将来のあるべき姿を共同で議論する場が生まれています。こうした取り組みは、日本企業が水平的なコラボレーションを強化し、グローバル競争力を高めていく上で非常に重要な一歩だと考えています。


欧州IT業界の変化と日本企業への示唆・クラウド、データ主権、そして新たな競争軸とは

渡邉: 近年、クラウドサービスの普及やAI活用の拡大により、企業のIT活用は大きく変化しています。また、セキュリティやデータ管理に対する考え方も地域によって違いが見られます。こうした中で、ドイツや欧州のIT業界ではどのようなビジネスモデルへの転換が進んでおり、企業はどのような課題やテーマに関心を持っているのでしょうか?

Axelさん: IT業界に目を向けると、近年の欧州では米国と同様に、サブスクリプション型のクラウドサービスやマネージドサービスへの移行が急速に進んでいます。その背景には、企業が継続的なコスト最適化や運用負荷の軽減を求めていることがあります。また、近年特に注目を集めているのが「データ主権(Data Sovereignty)」です。クラウドやAIの活用が広がる中で、自社のデータがどこに保管され、誰によって管理されるのか、さらには各国の法規制や地政学的リスクにどう対応するのかといった点に、多くの企業が強い関心を寄せています。

現在の欧州では、データ主権は単なるセキュリティやコンプライアンスにとどまらず、経営トップレベルで議論される重要な課題となっています。私自身は、日本企業においても重要なテーマであると考えていますが、まだこのテーマに対する関心や優先度は、海外と比べると十分に高まっていないように感じています。

渡邉: 企業でのシステム導入の進め方やパートナー企業との関係において、日本と欧州の企業との違いはありますか?

Axelさん: 一般的な違いとして、欧州の企業は自社のプロジェクト管理を少数のシステムインテグレーター(SIer)に任せることを好みますが、日本では同じプロジェクトであっても多数のSIerが関与することが非常に一般的です。 

もう一つの違いは自動化の度合いです。欧州においてSAPは高度な自動化のためのツールと見なされており、SAP内で実行可能なことを手作業やExcelで行うことは可能な限り避けられます。一方日本では、プロセスシステムが導入されている傍らで、依然としてExcelが人気のあるツールとして併用されています。

サイロを越えられる企業が強くなる イノベーションを生む組織の条件とは

渡邉: 日本企業の強みの一つは、組織の結束力や現場の規律、そして高い当事者意識にあると思います。一方で、イノベーションの創出という観点では、異なる企業や業界、さらには多様なバックグラウンドを持つ人材同士がつながり、新しい発想を生み出すことも重要です。Axelsan-4

ドイツや欧州では、企業の枠を越えた協業や知識共有が比較的活発に行われている印象がありますが、日本企業が今後さらにイノベーションを加速していくためには、どのような考え方や取り組みが求められるのでしょうか?

Axelさん: 日本はドイツと比較すると、組織やコミュニティへの帰属意識が非常に強く、そのことが高い規律や責任感、優れた現場力を生み出しています。人口密度が高いにもかかわらず犯罪率が低いことも、こうした社会的な結束力の表れと言えるでしょう。一方で、この強い帰属意識は、組織や業界の枠を越えた連携を難しくする側面もあります。私は、日本企業には「サイロ」の傾向があると感じています。部門ごと、企業ごとに知識や情報が閉じてしまい、外部との交流や協業が限定的になりがちです。その結果、異なるバックグラウンドや視点が交わることで生まれるイノベーションの機会を逃してしまうことがあります。

特に日本の垂直統合型の産業構造では、同じサイロの中では強固な連携が行われる一方で、異なるサイロに属する企業同士、特に競合企業同士のコミュニケーションが十分に行われない傾向があります。しかし、現在の課題の多くは一社だけでは解決できません。例えば、欧州のサステナビリティ指令(Scope 3)では、製品の環境負荷に関する情報をサプライチェーン全体で収集・共有し、報告することが求められています。これを実現するためには、競合企業を含む業界全体で標準やルールを共有する必要があります。

ドイツでは、このような課題は競争領域ではなく「非競争領域」として捉えられています。業界全体に利益をもたらす課題に関しては、競合する企業同士であっても積極的に協力し合います。日本企業が今後もイノベーションを推進し続けるためには、サイロ化を避けながら、多様な企業や人材とつながり、どこで競争し、どこで協調すべきかという境界線を再考することが重要だと私は考えています。

渡邉: 日本企業が持つ強い組織力や帰属意識は大きな強みである一方、イノベーションやグローバル連携を進める上では、組織や企業の枠を越えた協業がますます重要になっています。こうしたサイロ化の課題を乗り越えるためには、どのようなアプローチが有効だとお考えでしょうか。

Axelさん: 私は、全員を完全にオープンマインドに変える必要はないと思っています。それは現実的ではありませんし、人は本来、所属する組織やコミュニティに安心感を求めるものだからです。重要なのは、それぞれの組織やグループの間をつなぐ「接着剤」のような役割を持つ人材や機能を意図的に配置することです。例えば、本社と海外子会社、異なる事業部門、あるいは国や文化の異なる組織の間に立ち、双方の言語や価値観を理解しながら対話を促進できる人材です。

こうした橋渡し役は、一方の立場だけに偏るのではなく、異なるコミュニティの信頼を獲得し、共通の目的を見いだすことが求められます。興味深いことに、その役割は必ずしも組織内部の人間である必要はありません。時には外部の人材や第三者的な立場の組織の方が中立性を保ちやすく、異なるグループを結び付ける存在として受け入れられやすいこともあります。
サイロをなくすことよりも、サイロ同士をつなぐ仕組みをつくること。それこそが現実的かつ効果的な解決策だと考えています。

本社と海外子会社の「2つの嘘」 グローバル経営に必要な橋渡し役とは

Axelさん: サイロ思考を象徴する、私の好きなジョークがあります。本社が海外子会社を訪問するときの「2つの嘘」です。本社の人間は「助けに来ました」と言い、子会社の人間は「歓迎します」と言うのです。

渡邉: (笑)耳が痛い企業も多そうですね。実際のところはどうなのでしょうか。

Axelさん: 実際には、本社は「なぜ子会社は本社の方針やルールに従わないのだろう」と感じています。一方で子会社は、「資金だけくれて、あとは放っておいてほしい」と考えていることが少なくありません。グローバル経営やシステムのグローバル展開(ロールアウト)では、このような相互不信や認識のギャップに常に直面します。特に、日本とアメリカ、日本と欧州のように、異なる文化や価値観を持つ組織同士ではなおさらです。

だからこそ重要なのは、双方の言語や文化、ビジネスの背景を理解し、それぞれの立場に立って対話できる「橋渡し役」の存在です。コンサルタントやグローバル人材は、単なるプロジェクト推進者ではなく、本社と現地の双方から信頼されるコミュニケーションチャネルとして機能しなければなりません。問題が表面化してから対応するのではなく、対話を通じて火種の段階で解決していくことが、グローバルプロジェクト成功の鍵になるのです。

渡邉: 日本企業では、本社が海外子会社に求める目標が、「リアルタイムでデータを取得すること」に偏っているケースが少なくありません。しかし、子会社の立場からすると、それだけでは自社の成長や競争力強化につながるとは感じにくいものです。子会社の成長や強化という視点が欠けていては、現地組織の納得感やモチベーションを得ることは難しいのではないでしょうか。

Axelさん: おっしゃる通りです。データ収集そのものを目的化してしまうのは不十分な戦略です。データは意思決定のための手段であり、本来目指すべきは、世界情勢や市場環境の変化に応じて、在庫や投資、生産能力をグローバルに最適配置できる経営の柔軟性を獲得することです。長年続いてきた取引関係やサプライチェーンが一夜にして変わる時代だからこそ、本社は「管理のための可視化」ではなく、「成長と変革のための可視化」を目指すべきだと思います。
この形だと、「データを取ることが目的ではない」「グローバル経営の俊敏性が目的」という経営への示唆が明確になります。

なぜドイツ企業は世界で戦えるのか グローバル企業を支えるエンジニア主導の経営

渡邉: ドイツをはじめとする欧州には、多くのグローバル企業が存在します。日本企業も世界各地で事業を展開していますが、グローバル市場におけるドイツ企業の存在感は特に際立っているように感じます。こうした違いはどこから生まれるのでしょうか。ドイツ企業が強いグローバルマインドを持つ背景についてお聞かせください。

Axelさん: 第一に、地理的な要因が大きいと思います。ドイツはヨーロッパ大陸の中心に位置しており、周囲には多くの国々が存在します。海によって隔てられた日本とは異なり、歴史的に異なる言語や文化を持つ国々と関わりながらビジネスを行うことが当たり前でした。そのため、国内市場だけでなく、最初から国境を越えて事業を展開する発想が根付いています。
加えて、「自国で成功した優れた技術やソリューションは、世界でも通用するはずだ」という強い信念があります。この考え方が、ドイツ企業のグローバル展開を後押ししてきたのだと思います。Axelsan-5

渡邉: では、BMW、BASF、Siemens、SAPといったドイツを代表する企業の強みはどこにあるのでしょうか。また、日本の製造業やIT企業との共通点や違いについてはどのようにお考えですか。

Axelさん: ドイツ企業の大きな特徴は、技術や製品への深い理解を持つ専門家が経営の中核を担っていることです。例えば、BASFのCEOは化学者であり、BMWのCEOはエンジニアです。技術力や製品力を企業競争力の源泉と捉える考え方は、トヨタや日立をはじめとする日本の優れた企業とも共通しています。

一方で、欧州ではITも伝統的なエンジニアリングの一部として捉えられており、製造業とITの融合が比較的自然に進んできました。そのため、製造現場とデジタル技術を統合する「インダストリー4.0」のようなコンセプトも受け入れられやすく、産業界全体で推進する土壌が形成されたのです。

文化の違いを超えて協業するために 日本とドイツの意思決定スタイル 

渡邉: 欧州のビジネス文化を語る際に、「日本人は『みんながやっているから』に反応し、ドイツ人は『それがルールだから』に反応する。もちろん単純化し過ぎることはできませんが、こうした文化的な違いはビジネスの進め方や組織運営にどのような影響を与えているのでしょうか。

Axelさん: そうした話は、文化の違いを分かりやすく表現するためのジョークとして語られることが多いですね。実際には、どの国にも多様な人々がおり、一括りに語ることはできません。その上で言えば、ドイツでは伝統的にルールや原則を重視する傾向があります。これは時に柔軟性を欠き、官僚的に見えることもありますが、一方でビジネスにおいては公平性、責任の明確化、そして相互の信頼につながっています。ルールが共有されていることで、組織や企業の枠を越えても安心して協力しやすくなるのです。

また、意思決定は比較的トップダウンで行われることが多いものの、上司の考えに異議を唱えたり、建設的な議論を行ったりすることは一般的に受け入れられています。こうした文化が、組織としての一貫性と個人の専門性の両立を支えているのだと思います。

そうは言っても、現代のドイツも世代交代やデジタル化、グローバル化の影響を受けて大きく変化しています。そのため、「ドイツ人はこうだ」と一言で語ることは以前より難しくなっており、多様性はますます高まっていると感じています。この変化がどのような結果をもたらすのかは、まだ分かりませんし、今後の展開を見る必要があります。

世界へ飛び出す勇気 日本企業への3つのメッセージ

渡邉: 最後に、これから欧州進出を目指す日本企業に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。

Axelさん: グローバルビジネスにおいて最も重要なのは、人と人が直接会い、信頼関係を築くことです。新しいアイデアやビジネスの機会は、実際に顧客と向き合い、対話する中から生まれます。欧州の人材が日本を訪れるだけでなく、日本企業の皆さんも積極的に欧州へ足を運び、現地のスタッフや顧客と時間を共有してほしいと思います。その経験は、何にも代えがたい価値をもたらしてくれるはずです。

その上で、日本のビジネスリーダーに3つのメッセージをお伝えしたいと思います。

第一に、自社の競争優位の源泉を磨き続けることです。
第二に、不確実な時代だからこそ、グローバルへの挑戦を止めないことです。変化を脅威ではなく、新たな成長機会として捉える視点が重要です。
第三に、特定市場への依存を避け、変化に柔軟に対応できる経営基盤を持つことです。柔軟性こそが、これからの競争力になります。

日本の製品や技術、そしてものづくりの品質は、世界中で高く評価されています。それは日本企業が持つ非常に大きな資産です。だからこそ、過度に慎重になる必要はありません。自信を持って世界へ飛び出し、自らの価値を世界の市場で試してほしいと思います。


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